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「…なんか、もうねむいかも」
「思ったより早いな、いいよ寝て」
「うん、ベッド入る…」
布の擦れる音が聞こえてくる。質感いいな、とか、やめておこうか。
通話を始めた時から布団にうずくまっていたから正直Aさんが布団に入っていなかったことに少し驚いた。ベッドの軋みだと思っていた音は椅子の背もたれだったらしい。
「……ねぇ刀也くん何か喋ってて」
「…いいけど、眠れなくなりません？」
「大丈夫、寝れるから、おねがい」
なにか、ってなんだろう。なんでもいいかな。
眠たげに丸まった声に釣られて、自分の眠気も増している。少しずつふわふわしてくる頭で、友達のこと、好きな漫画の話、幼少期の話。思いつくままにただ話し続ける。途中でAさんが小さく笑ったり、うんうん、なんて相槌を打ってくれたり。その声がどんどん小さくなっていって、ついに声ではく息を吐いただけ、みたいな音になった。
「…Aさん」
小さく呼ぶ。
「Aさん寝ましたか？」
囁くように。
返事はなくて、代わりにすり、と布の音。
…寝た？
案外、想定していたよりもずっと早い入眠だったな。と通話終了のボタンを押そうとして、ためらった。
Aさんは、悪夢を見ると言っていなかっただろうか。眠れない理由、というよりかは眠りたくない理由、ではなかっただろうか。寝落ちたこともあるといっていたから、きっとそうなんだ。
「…Aさん？」
また、小さく呼んでみて、それでも反応のないことを確認した後、また、さっきと同じように話し出す。
天井のシミが顔に見える、とか。犬が吠えた、とか。廊下から漏れていたリビングの光が消えて、多分みんな寝たんだろう、とか。
「……刀也くん？」
勢いよく起き上がる。拍子にスマホが床に落ちて、大きな音を立てた。
「わっ、大丈夫？昨日、通話切らなかった？」
落ちたスマホから聞こえてくる声に、思考がだんだんはっきりしてくる。あぁ、そうか昨日通話して、そのまま寝たのか俺は。
「…おれも、ねおちたかも」
「声、ふわふわだね」
ふふ、なんて息の含まれた笑い声にそっちだって大概ふわふわしてるじゃん、と言いたかったけど口が回らずにモゴモゴと口籠った。
「今日一緒に行く?」
「…ぅん、」
「わかった、じゃあまた後でね」
通話、ありがとう。それから、一人称、俺の方が好きかも私
その声が最後に通話が終了され、身体中の毛が逆立った。
「…僕、僕だった、、僕僕、僕…はぁ…」
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作者名：でん太郎
| 作成日時：2022年10月2日 17時
