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慌てて口を抑えるがもう遅い。彼は首を傾げている。私はここ数週間の彼との時間で彼についての解像度が少しばかりあがっている。それが私の勘違いでなければ、これは気になることができた時の顔。下手に誤魔化そうものなら彼の好奇心がそれを許さず口に出さずに済んだはずの事まで引き出されてしまう。それは、いやだから、

「…刀也くんの手、思い出すと、ねれました、このあいだ、」

彼女とはいえ契約関係。彼が私のことを好き…かは分からないけれどとにかく、こんなことを言われたら普通、気持ち悪いだろうに

「…そ、ですか」

彼の顔は、真っ赤に染まっていた。

そんな顔、しちゃうの。
私、きみがこの話を聞いたらめんどくさくなって、私から離れていってしまうと思ったのに。これを聞いた後でも、そんな顔しちゃうの。

「僕がいれば、Aさんは寝れる、ってこと」

疑問符の付かない質問。ひとつ、頷く。

「…やば、」

面白いくらい顔を真っ赤にした彼は自分でもそれを察したのだろうか、腕で顔をすっかり隠してしまった。

「とうやくん、顔赤すぎない」
「うるせぇ、」
「思ってたんだけど、君くちわるいよね」
「Aさん、ほんとに寝不足なんですか、なんか、キレがある…」
「寝不足だよたしかに。丸2日寝てないよ」
「それはそれでやば…まって、……うん、」

ふぅと彼が小さくため息をついて次ににその目が私を捉えた時、その顔から赤みは引いていた。

「…それ、"思い出すと"ってことは実物がいなくてもいいんですよね」
「…う、うん、」
「声とか、存在とかではなくて、手?」
「…わかんない、その時は、その……刀也くんが、私のほっぺた触った時の、こと思い出してて……」

あれ、おもったよりも、恥ずかしい。顔を両手で覆えば頬はじんわり熱をもっている。

「……刀也くんといると、安心するから、その延長みたいな……?」
「そう、…もし本当に僕がいることでAさんが眠れるなら、それが声でもいいなら、夜、通話でもと思ったんですけど」

下心とかは無いから、単純にAさんが寝れるならって…僕でよければ、元々寝るの遅いんでAさんが寝るまで話してますし…

こんなにももつれた彼は初めてだ。
早口に捲し立てられたそれらと再び彩度を上げた頰。

「…じゃぁ、お願いしても、いいですか」

私だって、下心なんてない。ただ、彼の好意に甘えるだけ。眠りたいだけ…なんだ。

彼が、安心したように笑った。

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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時

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