嘘つきカップル (ページ13)

今日:33 hit、昨日:78 hit、合計:262,643 hit

_9 ページ13

「誰かに言われたんですか？」
「あ、ちがくて、樋口さんが…友達がそう思われても仕方ないって」
「樋口…？」

樋口って、あの…？
刀也くんは少し眉を寄せた後、盛大にため息をついた。そして、未だ私の頭に乗っていたその手を側頭部伝いに下ろしていき、両手で私の頰を包み込む。彼の手に巻かれたテーピングがカサリと乾いた感触を与える、

少しの力で引き寄せられ、ふんわりと彼のクリーンな香りが漂ってくる。気がつけば私と刀也くんの距離は鼻と鼻が触れてしまうほどに近くなっていた。

「いいですか、僕はAさんと仲が良いつもりです。Aさんが狙ってそんなことをするなんて思っていません。だから、ビッチなんて言葉、僕が言うなんて思わないでください。失礼な。」
「…は、はい」
「…でも、やっぱり他の男に服借りるのは、やめてくださいね。言ってくれたら喜んで貸すから、」

ね、という音を最後に私と彼の距離は元に戻った。けれど私はぼぉと彼を見つめるしか出来ない。心臓が、ドクドクとうるさく脈打っている。
おかしい。こんなに心臓がうるさいなんて、絶対におかしい。頰だって、熱が出た時みたいに火照っている。

「はは、Aさん真っ赤じゃん」
「う、うるさい、よ…」

意地悪そうに笑うのが、随分とうまい。それに文句を言ってやろうと口を開いた私は、気づいてしまった。

「ね、ねぇ、刀也くん」
「はい？」
「あの、もしかしてずっと、人が…」
「あぁ、そうですね、皆んなしっかり見てたんじゃない」

見せつけるためにやったから、狙い通りだけど。

「とぉやさぁん！なぁに見せつけてくれちゃってぇ！」
「剣持と須永付き合ってたの！？」
「何言ってんのずっと前から噂流れてたじゃん」
「思ったよりラブラブで悔しいんだけど…！！」
「俺、須永狙ってたのに…」「私も剣持くんのこと好きだった…」
「けどまぁ、あの2人なら…」

「いやぁ、お似合いカップルってやつなんだねぇ」

次々に聞こえてくる冷やかしやらなんやらの声に、だんだん思考が回り始める。

もしかして、これは、

「ね、これでますます噂広がるから」
「っ、」
「もしかして、本気でドキドキしちゃいました？」

「っそんなことない！！」

耳元で囁かれたそれに、私の鼓動数を返してほしい、と本気で思った。