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「え、じゃあ、はじめから知ってたってこと…?」
「はい」
「私が、刀也くんを呼び出した時から…?」
「さらに言うと昼休みから」
「ほんとうにいみがわからない」
刀也くんは、突然笑い出した彼に困惑する私を見て更にツボに入ったようで、こみ上げてくる子供のような笑い声でいつまでもおかしそうに笑っていた。そして、ふぅと一息ついた後に、恐るべき一言を放った。
全部ガクくんから聞いたので、知ってました。
「悪魔、悪魔だよ刀也くん、」
「狼狽えるAさん、中々面白かったですよ」
「私、刀也くんが怒るかもって、あんなに怖かったのに…ひどい」
「あぁ、それはすみません、けど、」
ふっと、私の視界に影が差す。反射的に顔を上げれば、頭一つ分上に、刀也くんの鼻先。すこん、と表情の抜け落ちた彼の顔は先ほどまで浮かんでいた可愛らしい笑顔と対照的。で2メートルほどは開いていたであろう刀也くんとの距離がわずか一歩分までに縮まっていた。
涙袋の線綺麗だなとか、鼻筋通ってるなとか、まつ毛が長いなとか、ついついそんなことを考えてしまうのは、今初めて見た彼の表情がどこか怖い気がするから。
刀也くんはじぃと私の目を見つめたまま、口を開く。
「怒ってないとは言ってませんよ」
「…ぇ」
「Aさんと付き合っているのは僕でしょう?それなのに、他の男に服を借りるなんて、自覚が足りてないんじゃないですか?」
ふっと、樋口さんの言葉が脳裏をよぎった。
『ビッチ』
刀也くんも、そう言うのだろうか。
恋愛経験の無さは理由にできないと、心臓が鳴り響く。どうしても、彼の口からその言葉を聞きたくなかった。彼の、冷たい表情でその言葉を聞いたらと考えると恐ろしくてたまらなかった。
「ガクくんが気をきかせてくれたからいいものの、下手したら貴女、男好きとかなんとか、変な噂流されますよ」
「…ご、ごめん、なさい」
「…べつに、謝らなくていいですよ、次から僕を頼ってもらえればそれで」
だから、ね、そんな怯えた顔しないでください
ぽんと頭に何かが乗る感覚。それは制服のブレザーで刀也くんの肩と繋がっていて…。それで初めて私は彼に頭を撫でられているのだと認識することができた。そのままするすると彼の目に視線を移せば、その顔にはいつもの余裕ぶった笑みが戻っている。
「…ビッチって言わないの?」
「はい?」
「他の人から服借りたから、ビッチって言わないの?」
彼は、私の言葉にきょとんと目を丸くし首を傾げた。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時