嘘つきカップル (ページ8)

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洗濯日和な午後の柔らかい日差しの中、30余名の生徒が声を揃えて準備運動をしている。気温は26度といったところか。そよそよと頬を撫ぜる風が暖かく、眠気を誘う。

ふと視線を上げれば、準備運動の手本として、わたしたちの前で屈伸をする男子生徒の斜め後ろにいるりりむちゃんと目が合った。

りりむちゃんはぱっちりとした瞳を楕円にして笑った後、ふりふりと手を振る。後ろから監督をしている体育科の先生にバレないよう、控えめに振り返せばますます大きく振り返してくるものだから、慌てて手でばつ印を作った。

「Aちゃん」
「ん？どうしたの？」

と、隣にいた樋口さん、言っても背の順2列で並んでいるから小さい私と背の高い彼女はいつも隣にいるけれど、小声で声をかけられる。

「随分とラブラブなこってぇ」
「…ん？なにが？？」

樋口さんの言った意味がよく分からずに、思考が脳回路を一周する。首を傾げる私に樋口さんは「とぼけるなって！」なんて、にたにたという表現が似合う笑顔で私の右腕を指差した。

「ばっちり刺繍されとるやん、彼氏の名前！」
「は」

思わず、音にならない息を吐いた。恐る恐る樋口さんの指差す先を見てみれば、そこには確かに「T.KENMOCHI」の文字が。

「Aちゃん小っさいから剣持のめちゃだぼだぼやん」
「ま、まって？私今刀也くんの体育着着てる？」
「はぁ？何言うてんばっちり着とるやんけ」

眉を寄せ怪訝そうな顔をした樋口さんの言葉に、頭を抱える。

私、伏見くんにかりたよね？すごい満面の笑みで体育袋持ってきてくれたよね…？あれ、"満面の笑み"…？

「どした、具合悪いん？保健室行く？」

樋口さんは驚いたように私の背中に手を当ててくれる。それに首を振りふり、

「や、」
「…や？」

「やられた！！」

叫んだ。

　

「だぁっははは！！ま"っ！そりゃ見事に…！！」
「ねぇ笑い事じゃないよ！これどうすればいいの…！？」
「普通に返せばええやん」
「勝手に体育着使っちゃったのに無理！」
「付き合っとるんやから問題ないやろ」

それが大アリなんです〜…！

「なにを当たり前のことを」と言わんばかりの樋口さんとぎゃんぎゃん騒ぎ立てる私。はたから見ればきっと女子高生が戯れているようにしか見えないであろうこの光景は、私には大事件である。

「伏見ガク絶対許さない〜！！！」

私の叫びが校庭に響き、見学だからと木陰に座っていたりりむちゃんが驚いたようにこちらを向いたのが見えた。