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そんな私に刀也くんは何も言わず、その代わり手に持つカフェオレを二本に増やしてレジへ向かった。
コトリとレジに置かれたカフェオレと、いらっしゃいませと笑う店員。
「肉まん一つお願いします」
「えっ」
彼の言葉で反射的に声を上げるも、彼はどこ吹く風で。繋いでいた手は支払いのために離されて。その代わり両手に収まったのは半分に割られた肉まんと、カフェオレの缶が一本。
「一緒に、怒られましょうか」
「…刀也くんがくれたから仕方なくって言うから、私は怒られない」
「おい」
ドスの効いた声を出した刀也くんの顔はにこにこと笑っていて、私も釣られて頬が緩む。
じんわりと手のひらに広がる熱と外気にさらされ冷えた缶の冷たさが気持ちよかった。
「あったかい」
「この季節にはちょっと暑いかも」
「でも、美味しそう」
「うん、冷める前に食べちゃいな」
そう言われて肉まんに視線を落とすも、なんだか口をつけるのがもったいなくて、しばらくそれと睨み合ったあと、私は彼を見上げた。
「…刀也くんが先食べて」
「え?なんで…まぁいいですけど、」
じゃあ、いただきます
バクンという効果音が聞こえた気がした。彼の手に収まっていた白いソレはあっという間に消え去ってしまって。しばらく咀嚼のために口を動かしていた彼の喉からんきゅ、なんて音が聞こえて、彼がすっかりあの肉まんを食べ終えたことを察した。
「…食べましたけど、」
「うん、じゃあ私も食べる。…刀也くん、具合悪くなってたりしないよね?」
「…え?もしかしなくとも僕に毒味させた?」
「だって、5年ぶりだから…」
「あぁ、それなら…じゃないよ全く理由になってませんからねそれ」
じとりと私を睨みひどくない?彼がむくれる。それがやけに幼く見えて、思わず吹き出した。
毒味なんて、させるわけがない。彼がふざけてそういうことにしてくれたからそれに乗らせてもらっただけで。本当は、手の中にあるこれを食べて仕舞えば、これがなくなって仕舞えば、今流れるこの心地よい時間まで無くなってしまう気がして。あの時みたいに、最後になってしまう気がして。
だから、肉まんが彼の腹に収まった後、彼が見せた子供っぽい表情に安心した。あ、まだ続くんだ。まだ、終わらないでいれるんだ。って。
ふかり、と白い生地に食らいつく。
「どうです、人を踏み台にして口にする肉まんの味は」
「…おいしい」
そうじゃなきゃ困りますなんて、刀也くんが、満足げに目を細めた。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時