♭君が赤髪海賊団の一員になった日 ページ5
その夜は宴だった。
「新しい仲間だ!」
「おれ達のお姫様に乾杯!」
至る所であの赤ん坊を祝福する声が上がる。
『そういえば……女の子だったんですね、あの子。』
「あぁ、そうみたいだな」
副船長と並んで、中央で騒ぐお頭を眺める。
『女の子だったら男の僕達とはいろいろ違いがありますよね。
身体のこととか、思春期になったら相談相手にも困るかも……』
そう零すと、副船長は堪えきれないといった様子で吹き出した。
「おいおい、随分気が早いな。
まだ言葉すら話せない子どもだぞ。
そんなに焦らなくたっていいだろう?」
───それとも、そんなに心配か?
そうやってニヤリと口角を上げる姿は、男の僕から見ても格好いい。
その仕草と問いかけに、つい赤ん坊がぐずっていないかを見るため、近寄っていた足が止まる。
『……そりゃ、心配にもなりますよ。
っていうか何も考えてないよりは良いでしょう?』
少し気恥ずかしさを感じて逆ギレしたみたいになってしまった。
こんな小さなことで取り乱すとは、僕もまだまだ副船長のような大人には程遠い。
「まぁな。
親のお頭があんな調子だ。
お前みたいに考えすぎる奴が一人くらいいて釣り合いが取れるかもな。」
『別に、考えすぎている訳じゃないです。
まぁ、一児の親になったんだし、お頭にはもう少し落ち着きを覚えてほしいものですが。』
「ハハ、言うようになったじゃねェか」
宴の中心では誰が歌を歌い出した。
海賊と言えば宴。
宴と言えば歌。
海賊の歌と言えばこの曲、“ビンクスの酒”だ。
「「ヨホホホ〜 ヨホホホ〜」」
歌の輪は広がり、僕も一緒になって口ずさむ。
実を言うと、僕はあまり歌が得意ではない。
実際、真面に歌える歌はこの“ビンクスの酒”くらいだったりする。
「「『ビンクスの酒を 届けにゆくよ』」」
僕の隣からキャッキャと声がした。
目を向けると、赤ん坊が笑っている。
「お、見ろお前ら!笑ったぞ!!」
いつの間にか隣に来ていたお頭が嬉しそうに声を上げる。
「こいつ宝箱に入っていた時も泣いていたんだが、おれが歌うと笑ったんだ。
歌が好きなのかもしれないな」
『お頭の歌で……?それ、ちゃんと歌って認識されてたんですかね』
「何だと?!お前だって音痴なくせに!!」
『僕とアンタは同レベルなんで。』
ていうか、お頭より僕の方が上手い……筈。
いや、どんぐりの背比べだろうけど。
横で可愛くないだのなんだの言っているお頭は放っておこう。
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作者名:凍ったライム | 作成日時:2022年10月1日 0時