脚色 Ⅱ (ページ7)

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nb「…、俺と涼太はただの幼馴染っていう関係じゃねぇ」

そう渡辺は呟き、バンコクの夜空を見上げ話し始めた

▼▽▼

　「先生！母子ともに低体温に陥っています！」
　「母親は持ち直せるが子供がｯ、」
　「兎に角、子の命を優先させろ!!」

バタバタと手術室で医者と看護師が騒ぎ立てていた
強盗に入られた名家の娘が腹部を刺され危篤状態、そしてその娘は子を孕んでいたのだ

娘の両親は実子よりも跡取りとなる孫の命を優先させ、医者に金を握らせた
しかし、どちらも低体温症を患い、判断が少しでも狂うと二人とも失うことになってしまう

医者らは急いで、名家の人間たちの言う通り子を先に安全で呼吸が安定するような処置を施した
すると、子はその行為に応えるように段々と体温を取り戻してゆく

だが…、虚しくも母親の心音器は停止音を告げ、その場に居た全員が血の気を引かせる
これはある種の医療事故であったが、名家には子は何人もおり、この娘も取るに足らない存在であったが故に揉み消されることとなった

そして、助かった赤子は亡くなった母親の両親により、「太陽に向い翔けてゆく」という意味を込めた「翔太」という名を授かることとなる

此処までならば、ドラマや舞台などでよくある話なのだが、翔太の人生は更に酷な物へと変化してゆく

名家の親族は、翔太が一歳になるまで安全な環境で育てるようにと病院に金を握らせて、彼を育児放棄したのだ
恐らくであるが、あれだけ金を積んで生んだ子を厄介払いしたのだろう

生まれたばかりの翔太は、本来ならば両親の愛ある腕の中で育つはずが、管理された保育器の中で育つこととなる
更に彼にとっての不幸は、彼が生まれながらにしての異能力者(ジゼル)であったこと

生まれながらの異能力者(ジゼル)は少なく、命の危険などを感じた際に後天的になることのほうが多い
生まれもってしまえば、その異能力(ギフト)を扱いきることは難しかった。それは翔太も例外ではない

母親を低体温症で亡くしたのも、事の発端は腹部の損傷であったが、決め手は翔太が産まれる際に無意識に使ってしまった異能力(ギフト)であった

異能力(ギフト)は母親を奪うだけでなく、保育器で育つ翔太にも牙を剥いた

赤子の小さな喉を凍らせ、呼吸困難に陥れていたのだ
この時のことを翔太は忘れることはないだろう

　(やだ、いやだ、しにたくない！)

そんな翔太を助けたのは、

　《じゃあ、俺と生きてよ》

隣の保育器で眠っていた赤子だった