脚色 Ⅱ (ページ35)

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その後、亮平は事情聴取などを経て自宅へと帰された
ぼんやりとしながらその帰路を辿り、自宅の玄関を開ける。微かに残る鉄分の香りに吐き気がせり上がりながらも乱雑に靴を脱いでリビングへと向かった

パチリ、と押しボタン式の照明を点灯させればリビングは今朝となんら変わりなく、しかしながら壁や床に所々残る斑点のような染みを見て、亮平はずるずるとリビングの戸を背に、床へとへたり込んでしまう

ab「…、あにき」

警察の話では、兄は亮平に酷い劣等感を覚えていて、亮平の合格の連絡を両親の喜びの声から察した後にその思いが爆発、殺害したのだろうということであった。死亡推定時刻が亮平が合否の連絡を入れた時間と合うことからそう判断したのだろう。そして、肝心の遺書であったが、亮平はそれを見ることが出来なかった

なんでも、最重要証拠品となるが故に遺族だろうとそれを見せることは出来ないという規定らしい。しかし、そこで亮平は警察への不信感を覚えたのであった
いくら証拠品であろうと、それを遺族に見せないようなことがあるだろうか、と

そして、その不信感が募り更には「兄は本当に自害したのだろうか？」という疑問を産み出したのである

ab「…、」

亮平はフラフラとした足取りで階段を上り、兄の部屋に向かってゆく。ガチャリ、と木製の扉を開いてはひんやりとした冷気を感じるのであった
室内を一見したところ、なんら可笑しな点はなく、いつもの兄の部屋であった。のだが、亮平は違和感を見付けた

その違和感の元に歩を進める、それは兄の本棚の一角に置いてあるルービックシューブだ。置いてある位置に変化はないのだが、その揃えられていた色が以前と異なっているのである。亮平はそれを手に取って、指定された色へとルービックシューブを動かしてゆく

このルービックシューブは兄の特製のもので、中が空洞化しており物が入れられる仕組みとなっていた。幼い頃はこれを使用して飴やキャラメルなどを仕込み二人で楽しく遊んでいたことを覚えているほど

そして、全ての色を揃えるとルービックシューブはパカリと開く。中には紙切れのようなものが入っていて、殴り書きの文字が綴られていた。それは汚いながらも兄の文字に酷似している。その内容は、

ab「りょうへい、にげろ…だまされるな、つづきは…しゃしんたてのなかに」

その文字を読み取った亮平はすぐさま行動を起こし、自室に向かう。中に入って鍵を掛け、見据える先はベッドサイドの写真立て