脚色 Ⅱ (ページ33)

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あのあと作間によって阿部は自身の部屋に連れ戻されてしまった。というのも、先生と呼ばれている人物に洗脳が解けているのがバレると厄介だから、ということらしい

不自由な身体をどうにか器用に動かし、車椅子から自力でベッドに横になる。もし、今此処に佐久間が居たのなら、この不自由な身体をすぐにでも直してくれるのに…、そう阿部は思いながらぼんやりと真っ白な天井を眺める

岩本邸は何処に居ようと外の風景が見られる仕組みになっていた。しかし、この部屋には窓は一つもなく、もはや部屋とも呼べぬただの箱である。阿部は自室から見ることの出来た美しい夜空を思い出しつつ、その瞳を閉じた

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阿部は【Snow/Man】に所属する前まで一般家庭で育ったただの高校生であった。父はサラリーマン、母は専業主婦、兄は大学生と何処にでもある家庭。幸せだった

特に阿部は…、亮平は兄の事をとても尊敬し、敬愛していた。兄は何時でも優秀で何処で自慢しても恥ずかしくないような人だった
亮平が中学生の時、兄のように優秀でないことをクラスメイトに冷やかされ、泣いたことは今でも鮮明に覚えているだろう。そのクラスメイト達は兄によって言い負かされ、亮平は兄のことをヒーローだと思い続けていた

兄のような人になりたい。憧れを持った亮平は勉強を怠ることなく、時間の許す限り費やして兄に近付こうとした。そうして、兄と同じ私立の高校に入学することが出来たのである
母や父は勿論のこと、兄も手放しで喜んでいて、亮平はとても嬉しかった

そんな日々がいつまでもいつまでも続くと思っていた

しかし、亮平の兄は大学受験に失敗してしまったのだ。第一志望であった難関大学を落とされ、第二志望であった大学へと入学した兄。その姿を見た亮平は失望と共に優越感を感じていた

あの完璧で非の打ち所がない兄ですら失敗をしてみせる。ならば自分はその姿から学び、同じ過ちをしないよう努めなければ

兄の失敗が自分の成功に繋がる。兄を敬愛していた亮平はそれと同時に兄に嫉妬と劣等感を抱いていたのだ。理由は明白、優しくそれでいて平等に兄弟を愛してくれる両親は必ず「亮平はお兄ちゃんに似て優秀ね」と悪びれもなく言うのであった

亮平はそれを聞く度に嬉しさと悲しさで胸をいっぱいにしていたのである。自分はただの兄の生き写しではないのだろうか？高校生になった亮平は持っていた知識を活用し、その結論に至ってしまった。気が付かなければ幸せだったのに