脚色 Ⅱ (ページ13)

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研究所では阿部の部屋に宮舘が訪れていた。■■■博士に言われたからではない、宮舘は自分の意思でそこに来ていた

しかし、当の阿部はというと瞳を薄紫色に輝かせて、ぼんやりと宙を見詰めている。そこに何が居るのかは、宮舘には見当も付かなかない

dt「…俺のこと、覚えてる？」
ab「…、みや、だてさん」
dt「…そう、」

再び、静寂が室内を包み込む。宮舘は自分が何故、阿部の元に訪れたのか分かっていなかった。もしかすると、助けようとしたのかもしれない。または、追い打ちを掛けようとしたのかもしれない

それは本人にも分からないため、謎のままだった

dt「…、」
ab「、宮舘さんは、どうして此処に居るの…？」
dt「どうして、って…」

大切な幼馴染を、片割れを人質に捕られているから。そう言えてしまえたらどれだけ楽だろうか、と思ってしまう。しかし、それは叶わない

dt「なんでだろう、な」
ab「…どうして、」
dt「えっ？」
ab「どうして、俺がこんな目に遭わないといけないの、？」
dt「そ、れは…」

宮舘は嫌な予感がした。それは、此処で出会う数多の未確認生体と接触した時に感じるものと同じである。此処に居てはいけない。そう思ったのも束の間、見遣った阿部の瞳の奥が蠢く。この蠢く瞳に、紫色に、宮舘は覚えがある

dt(【善悪のケロイド】ｯ!!!!)

あの能面を着けた青年、彼のその面の奥から見える瞳と、阿部の瞳が酷似している。急いで宮舘は口を開いた

dt「《何もするな》っ…!!」
ab「、」

その言葉を聞いた阿部は目を見開いたまま止まる。しかし、根本が解決したわけではない。彼は今、管理コード20020930-【善悪のケロイド】に洗脳されている。どうにかしてそれを解かなくてはいけない。宮舘は直感的にそう思った

だが、そんなことをしてしまっていいのだろうか？【善悪のケロイド】に脚を砕かれ切断された彼が目を覚ましても混乱も発狂もしなかったのは、【善悪のケロイド】に洗脳されていたから、もし洗脳を解いてしまえば？

そう考えていくと、宮舘はどうすることも出来ず、阿部の部屋から飛び出す。そして、そのままドアに凭れ掛かりズルズルと床に座り込んでしまった

dt(もう、何が正解なのか…分からないっ、)

俯いて、後悔の念を募らせる宮舘。そんな彼の真横を何かが通り過ぎようとした。だけど、その何かは通り過ぎることなく停止する

　「あの…、大丈夫、ですか？」

見上げた先に居たのは、見たこともない青年だった