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思わずのんちゃんの方を振り向く。俺のただならぬ空気を感じたのか、口パクで「だれ?」と聞いてきたので、同じく口パクで「シゲ」と伝えた。
のんちゃんもまさかシゲだなんて思わなかったようで、「え、」と声を出してからハッとして慌てて口を押さえた。
(何してるんはよ応えな)
(でも、)
(でもじゃない、また後悔するん?)
(そうやけど…)
(な?)
音を拾われないように必死に小声でやり取りして、のんちゃんに言われるまま改めてインターホンに向き合う。
1度深呼吸して、心を落ち着かせる。
さあ応答するぞと息を吸ったところで、痺れを切らせたのかシゲがもう一度話しかけてきた。
『神ちゃん?』
「ぁ、ごめ、ん。…どうしたん?」
『今出れる?』
「…。ちょっと待ってて、」
外はまだ寒い。急いで上着を着て、もしかしたらシゲも寒いかもしれないと思い一応ストールも持って玄関へ向かい、扉を開ける。
「お待たせ、」
「よ、ごめんなこんな夜に。」
「大丈夫やで」
外は寒いと言うよりはひんやりとしていて、肺に入ってくる空気がちょっと気持ちいい。
シゲは鼻のてっぺんが赤くなっていた。
腹巻愛用者だからお腹は暖かいんだろうけど、急いでいたのか服装自体は結構な薄着で、持ってきてよかったと思いながらストールを渡す。
「シゲめっちゃ薄着やん。これ…ストール使って」
「…ありがと。ホンマ気が利くな、神ちゃんは」
「……そんなことないやろ。ほら、さっきの、ご飯持ってった時とか…感じ悪かったやん俺。あの時ほんまごめんな」
「いや、あれは神ちゃん悪くないやろ。謝らんでええ。…でな、ちょっとさ、その辺歩かん?そんな遠くまで行かへんから。さっきの…そのご飯の時のこととか、他にも少し話したいことあんねん、」
「話したいこと?」
「うん。」
「……わかった、ええよ」
「へへ、ありがと。」
「ちょっと靴履くから待ってて」
「ん。ゆっくりでえーよ」
ご飯を渡しに行った時の様子のおかしさはどこへやら。今こうして俺と接する姿はいつものシゲだ。いつもの…というよりは、なんとなく気まずさが流れ始める以前のシゲ、の方が近いかもしれない。
「…よし、履けた。お待たせ」
「ほんじゃ行きますか」
「うん、」
それより、何だか纏う空気が優しい。…気がする。声色も、いつもより柔らかくていつもより甘い。…気がする。
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作者名:しり切れとんぼ | 作成日時:2022年2月12日 10時