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朝目が覚めてまず思ったのが、もう戻れないということ。
行為が終わってからこの部屋は高くないのかと聞けば、ユキはこのホテルの管理人だそうだ。若いのに管理人なんて立派。ラブホテルっていうのが少し引っかかるけど。
行為の最中はなにも考えなくて良いから楽だった。ただ目の前の相手のことだけ考えていればいい。振った男のことなんて考える必要はないし考えてしまうこともない。そんな暇がないくらい、ユキとの行為は激しかった。
『マリ』
『なに?』
『お互いうまくいったら終わりな』
『ん』
ユキはユキ、わたしはわたしで好きな人がいる。別に恋人がいるわけじゃないからこの関係は悪い事ではない。
気持ちがないだけでなにも悪いことはしていない。
『ね、ユキ』
『ん?』
『もう一回』
甘く囁き、ユキにキスをする。触れるだけのライトキス。
『…朝からぶっ飛んでんな。嫌いじゃないぜ、そういう女』
そう言うとユキはマリの上に跨り、マリがしたキスよりずっと激しいキスの雨を浴びせた。
私もマリのように全てを流してしまえたらどれだけ楽なのか。お酒の勢いに任せて身体を交え、忘れてしまえたらどんなに楽か。
しかし、行為の後には必ず罪悪感が付いてくる。している最中は夢中でわからなかった感情が一気に溢れ出る。マリになってみてわかった。
苦しい。だから忘れたい。気持ちよくて楽だから、またしたい。何度でも。
マリとユキの関係はそれ以上でもそれ以下でもない。ただ利用し合っているだけの関係。可哀想な自分を慰めあっている。その距離感が心地よくて、中毒のようにハマってしまったのだ。
ああ、いいな。マリはいいな。架空の人物だから、都合のいいように動かせる。
私は現実に生きているから、世間の目とか、そういうのばかり気にして好きなようには動けない。
「監督、なんで私をマリに選んだんですか?」
「私と一緒だ。マリはあなたしかいないって思ったから」
淡々と当たり前だというように、カクテルを飲みながら答えた監督。
予想通りの答え。
「そうなんですね」
「知ってたくせに」
「知りませんでしたよ」
「嘘ね」
いちごのカクテルを口に含み、小さく微笑む監督。私は監督と同じようにカシスオレンジを飲んで微笑む。
「神木さんがトウマなんだね」
私には目も向けず、監督は相変わらず淡々と言い放った。
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鼎(プロフ) - 自称 神木隆之介様 依存症さん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです(o^^o)のんびり更新ですがこれからもよろしくお願いします! (2016年5月18日 6時) (レス) id: 50123c4a48 (このIDを非表示/違反報告)
自称 神木隆之介様 依存症(プロフ) - この小説大好きです!!更新楽しみにしてます!!頑張ってください!! (2016年5月18日 0時) (レス) id: dbd5180fdd (このIDを非表示/違反報告)
鼎(プロフ) - すずやさん» ありがとうございます!のんびり更新ですが頑張って更新していくのでよろしくお願いします(^O^) (2016年5月14日 0時) (レス) id: 50123c4a48 (このIDを非表示/違反報告)
すずや - すごい面白かったですー。更新楽しみにしてますー! (2016年5月13日 23時) (レス) id: eddc991718 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鼎 | 作成日時:2016年4月12日 22時