９２ ページ42
私以外のスタッフ達は、この台本の心理描写を理解していない人が多い。もちろん、演者も含めて。
なぜこのセリフなのか。なぜそこでこの表情なのか。なぜこのアングルなのか。マリが何を思っているのか。
私しかわからない。私と、監督しかわからない。
わかってたまるか。
ある日、神木さんに声をかけられた。
「Aちゃん、今日仕事の後ってあいてる？よかったらご飯とかどう？」
「彼女さん誘ってあげたらどうですか」
心地よくて嫌いな、遠慮がちな声に、精一杯の嫌味を込めて返事をする。神木さんの表情なんて知らない。見てない。
「そうなんだけど、Aちゃんと話したくて…」
「私と話をする意味がわかりません必要ないと思いますけど」
「そうなんだけど…さ」
歯切れの悪い彼にイラつきを隠せない。
なんで私を誘うの？彼女いるじゃん。私なんかよりずっと可愛くてずっと性格良くてずっと素敵な彼女。ピンクが良く似合う、あなたの隣に並ぶのにふさわしい人。
「彼女ほったらかして他の女と会うのは良くないと思いますよ。それじゃあ」
冷たく言い放ち、軽く睨みつけて踵を返した。
自分で選んだ道だ。そう、私が選んだ道なのだ。彼との未来を、もしかしたらあり得た世界を。彼に心を奪われたあの瞬間から夢見た世界を、捨てたのは私だ。今更求めるなんて御門違いもいいところ。
だから流れるな、涙。
「っ嫌い…」
涙で歪む視界。今日の撮影は終わっているので、帰るために出口へ向かう。玄関で坂下さんが待っているはずだ。
「嫌い嫌い嫌い」
忘れろ。思い出すな。
「『大嫌い』」
マリーゴールドの花言葉はgrief。悲嘆。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 39人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鼎(プロフ) - 自称 神木隆之介様 依存症さん» ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです(o^^o)のんびり更新ですがこれからもよろしくお願いします！ (2016年5月18日 6時) (
レス) id: 50123c4a48 (このIDを非表示/違反報告)
自称 神木隆之介様 依存症(プロフ) - この小説大好きです!!更新楽しみにしてます!!頑張ってください!! (2016年5月18日 0時) (レス) id: dbd5180fdd (このIDを非表示/違反報告)
鼎(プロフ) - すずやさん» ありがとうございます！のんびり更新ですが頑張って更新していくのでよろしくお願いします(^O^) (2016年5月14日 0時) (レス) id: 50123c4a48 (このIDを非表示/違反報告)
すずや - すごい面白かったですー。更新楽しみにしてますー！ (2016年5月13日 23時) (レス) id: eddc991718 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鼎 | 作成日時：2016年4月12日 22時
