１３４ ページ34
「びっくりだよね。犯人、その人」
どこか面白そうに言う先輩。
私の目に映るもの。それは、白い封筒をこのマンションのポストに入れる川嶋雫監督の写真。詳しいポストの場所はわからないけれど、手元は私の部屋番号が付いたポストに触れている気がする。
その他にもたくさんの写真が封筒の中から出てきた。それらの写真で、犯人は確実に川嶋雫監督だとわかった。
いつから監督は神木さんのことを好きだったのだろう。外堀から埋めるタイプの監督。きっと、『仇花の涙』を作ると決めた時からだろう。
『好きな人ができた。』
その�犢イ�な人�瓩�、神木さんだった。あの時の撮影から時間が経っている。ずっとずっと機会を伺っていたのだろう。
私より先に神木さんに告白して付き合うのではなく、私を潰すことを考えた。
監督は、私が神木さんを好きで、神木さんも私を好きなことに気付いていた。その状況で、自分に神木さんの気持ちが向くはずがない。そう考えたから、一度付き合って、破局させることによって、私たちを、私を、潰そうとした。
あの時、応援してくれた時から、ずっと考えていたのだろう。私に気付かれないように、誰にも気付かれないように、心の奥に、醜い嫉妬心を隠して笑っていた。
監督は私の演技を褒めてくれたけど、私なんかより監督の方が凄いじゃないですか。私なんて、足元にも及ばない。
そういえば、神木さんが出る新しい映画の監督は誰だっただろうか。テレビで流れていた。ちゃんと見ておけばよかった。うろ覚えだから、確信は持てない。持ちたくない。
「多分、次の映画で落とすと思うよ。監督」
「え」
「神木さん。次の主演その監督の映画でしょ？」
フッと乾いた笑みが口元に浮かんだ。
遅すぎた。何もかもが遅すぎた。
『アプリコットサワーの真実』
アプリコットサワーのカクテル言葉。親身。
監督が私に親身だったのは、私から神木さんを奪うため。それが真実。
神木さんは絶対に気付かない。いや、気付けない。監督が神木さんに気付かれるように作るはずがない。
「ね、どーすんの？」
「…どうもしません」
ふーん、と興味なさそうに先輩が目を細める。
神木さんにも監督にも、会いたく無かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 57人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ハル - ありがとうございました。 (2018年1月22日 14時) (
レス) id: a6c0080ac7 (このIDを非表示/違反報告)
鼎(プロフ) - exkokesi83さん» ありがとうございます！（；；）そう思っていただけて本当に嬉しいです！ (2016年8月8日 11時) (レス) id: 50123c4a48 (このIDを非表示/違反報告)
exkokesi83(プロフ) - この作品読んで一番に思ったのが凄いでした。 (2016年8月8日 10時) (レス) id: 81cb6c4d50 (このIDを非表示/違反報告)
鼎(プロフ) - 鈴屋@アカウント死んださん» ありがとうございます！そう言っていただいて本当に嬉しいです（ ; ; ） 最近は焦りながら更新してしまっていたので、鈴屋さんの言葉が染みてきました。大切なことを思い出させてくれて本当にありがとうございます。変わらぬ質でお届けできるよう頑張ります！^ ^ (2016年6月6日 17時) (レス) id: 50123c4a48 (このIDを非表示/違反報告)
鈴屋@アカウント死んだ(プロフ) - この作品大好きです。人らしい感情というか主人公の自己嫌悪とかが上手く表現されてて毎度更新が待ちきれないです。ゆっくりで良いので今の質を保ってくれる事をねがっておりますます。応援してるので頑張ってください (2016年6月6日 0時) (レス) id: a27ad49a4b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鼎 | 作成日時：2016年5月26日 23時
