［扇風機の宇宙人］ ページ11
赤side
「神ちゃん神ちゃん」
「んー？」
「見てて。
ああ〜〜〜〜」
「ふふっ。もう、なんやねんしょーもない」
家でぐぅたらしてた時に
ふと目が入った扇風機。
それに魔が刺して、
だる絡みのように声をかけてから
扇風機へと声を吹き込んだ。
勢いよく回る羽根によって
揺れる音が宇宙人の声みたいに変わって
強い風が前髪を吹き飛ばした。
「神ちゃんもやろーや」
「えぇ〜」
やることもないまったりした時間。
断られる前提で言ってみたのに
意外にも乗って来た神ちゃんが
俺の隣へと腰を下ろした。
「あ〜〜〜」
「あ〜〜〜」
意味なんてない遊びだけど、
いつになってもちょっと面白いのは
子供心を失っていないからだろうか。
真近くにある神ちゃんを見れば、
すぐに目が合って柔らかく細められる。
その顔が可愛くて、
胸が弾んでしまって。
つい思いを言葉へ変えるように
目の前へとぶつけた。
「今日も神ちゃんは可愛いなあ〜〜〜」
「あははっ。なにそれ」
「ほんまに〜〜好きやあ〜〜〜」
面白おかしい声に任せて
照れを押し込める。
それから言葉を続ければ
嬉しそうに神ちゃんも扇風機へと
顔を向けるのが横目で見えた。
「俺もお〜〜〜好きやでえ〜〜」
「ひひっ。
うれし〜〜なあ〜〜〜！」
「誰にも渡さんからなあ〜〜俺の彼氏やも〜ん」
とびっきりの嬉しい言葉をかけられて、
横を向けば猫髭みたいなえくぼを浮かべる神ちゃん。
それがあまりに幸せすぎて、
真っ直ぐと目が合う彼にまた恋に落ちてしまう。
ぎゅうっと心臓を捕まえられて、
好きだと叫びたくなるほどに。
ずっと当たってる風が無意味なほど
顔が熱くて気持ちが落ち着かないのだ。
「神ちゃん」
扇風機越しでもない
自分の声。
それでもいつもより声色が違うのは
きっと神ちゃんも気付いてるだろう。
至近距離にこっちを向いた彼が
優しく微笑んで瞼を閉じる。
その瞬間、体に回る熱がぶわりと舞って、
カッコつけることも出来ずに
目の前の唇へと吸い込まれてしまっていた。
このキスは、扇風機の音で掻き消してしまおう。
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作者名：かみぶくろ
| 作成日時：2024年3月1日 23時
