14.空腹と涙 ページ15
・
緊張と、悲しさがお腹から抜けたのか、ぐぅ、と小さな音が鳴った。
それを笑った緑の彼は、私の手を引いて数時間前に居たリビングへと案内し座らせる。
「トラゾーって呼んでください。今後の関係の為にも」
「………トラゾーさん」
「僕は僕は？！」
「………しにがみさん…？」
「俺の名前覚えてる？」
「……クロノアさん」
「俺は？」
「…ぺいんとさん」
おぉ〜、なんて盛大な拍手をされ、思わず困惑してしまう。なんだか変な気持ちだ。
さっきまであんなに帰りたいと思っていたのに、たった一つの出来事でここに居座ることになるなんて。
「にしてもトラゾー、あんな頑固だったAをどうやって説得したの？」
「ん〜？…いやぁ、特に何もしてないけどな。」
ちょっと話し合いをしただけだぞ。とだけ言った彼と目が合うと小さく口角を上げていた。
ぺいんとさんはふーん、なんて言葉を零しながら私のことを見る。
それはまるで興味津々。
………なのを、私は無視。
そんな見られても、何も出ないし。
「はい。これご飯。」
「あ、…ありがとう、ございます」
「はい、ちょっといい？」
クロノアさんから受け取ったご飯を食べようとすると止めてきたのはぺいんとさん。
その顔は、私に言いたいと全面に出ていて。
「その敬語、やめない？」
「…………いいんですか」
「むしろ最初はタメ口っぽかったのに…」
しにがみさんの言葉に確かに、と零すと、ぺいんとさんはニコニコと笑って言葉を続ける。
「な、だからこれからはタメ口で！あと欲しいもんとかあったら好きに言って」
「わ、わかった」
じゃあどうぞ。
と言われて、彼らの見る視線の先を追うように見ると、夜ご飯であるお肉とパンとサラダがお皿に乗っていて。
思わずきゅる、とまた鳴ってしまう。
ゆっくりと湯気の立つそれを手に取って口に入れると、じんわり広がるパンの味。
今まで食べてきたパンより、きっとどれよりも素朴な味のはずなのに、なぜか今までで1番おいしかった。
さっき止まった涙は、また溢れてきてしまって
「ふふっ、まーた泣いてる」
「ほらティッシュ！鼻水垂れるって」
しにがみさんとぺいんとさんの言葉に頷く事さえ出来ず、かじりついたパンとともに涙を流した。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 77人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かめそん(プロフ) - 羽鶴さん» コメントだけでなくお気に入りにまで入れてくれてありがとうございます…！とっても嬉しいです！これからも更新頑張りますのでよろしくお願いします！ (11月11日 11時) (
レス) id: e5672cfe47 (このIDを非表示/違反報告)
羽鶴(プロフ) - 鳥籠の中面白かったです！夢主ちゃんが可愛いし、恋愛表現が無い所がお話を読みやすくてよかったです！お気に入り作者様に追加させて頂きますね、がんばってください！ (11月10日 16時) (レス) @page43 id: fcd2bda98b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かめそん | 作成日時：2023年8月20日 13時
