track66 ページ16
この真っ白の世界に来て恐らく数日経ったがまだ目が覚める気配がない、らしい。
「おいまだか」
「そんなお前死に急ぐなよ!?」
「死に急いでない、類君と司君、咲希ちゃんの容態が心配なだけだ」
怪我は無い、とは聞いていたが精神状態としては危ないはずだ、特に類君。
早く目を覚ましてやらないと下手なことが起きてからじゃ遅い。
「……はぁ……分かった分かった、つか分かってるから早く起きれないか色々調べてるんだよ」
「その分厚い本か」
「そ、だから大人しく待ってろって!」
そう言うと神様はまた本のページを捲りだした。
『――――ん――』
「……何か聞こえないか?」
「いや…俺には何も?」
ふと何か聞こえたような気がして立ち上がれば目を閉じて耳を澄ませる。
(……!……左手…が握られてる…?)
何かに左手が握られたような、包まれたような感覚に左手を見るも何もない。
「……!……A、時間だ」
「…!……目が覚めるのか」
「嗚呼、意識が浮上し始めてる。その手の感覚と声は現実で起きてることだ」
本をパタンと閉じて伸びをする神様の言葉に左手を見つめる。
この手の感覚、多分だが。
「―――……行って来い、もう来るんじゃねぇぞ」
「善処はする、保証は出来ない」
笑って俺を見つめる神様にそう答えれば感じた眠気に目をそっと閉じた。
――――…この、決して短くなかった数日間。
神様に頼んで紙とボールペンを出してもらって、俺も書いて考えてみた。
一体どうありたいのか、どうしたいのか、どうなりたいのか、まだ分からないことも書けないこともたくさんあった。
――――……だが、一つだけ、たった一つだけ見つかったことがある。
今は、起きたらそれに全力を注ぐ。それが今の俺に出来ること、の筈だ。
その為にも、早く起きないといけない。
(…それに、まだ類君と話が結局出来ていない)
――――…何かに、グッと引っ張られる感覚。
その感覚に従って歩きだして、段々走り出す。
少し息が上がるが、その引っ張られるままに走ればフッと周りの音が消えて真っ暗になった。
「――――ん………Aくん……」
遠くに聞こえていた声が、段々近づいてくる。
左手の感覚が、より鮮明に感じ取れる。
「――――――…………」
目を開けば、ぼんやりとした視界に紫が映った。
256人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れんちゃ - もういつの間にか数年もたっていたんだな…続きをずっと楽しみにしてるよいつかまた戻ってこねぇかな (5月27日 1時) (レス) @page50 id: 98fe1eda88 (このIDを非表示/違反報告)
のなめ - 最高です (2022年12月23日 15時) (レス) @page50 id: 2b5e96f834 (このIDを非表示/違反報告)
玲 - 好きです。続き楽しみにしてます! (2022年5月21日 18時) (レス) @page50 id: 0a8dc521f1 (このIDを非表示/違反報告)
nana民(プロフ) - あんまりGLって苦手なんですけど主様のは全然welcomeです (2022年4月11日 15時) (レス) @page33 id: 52a3fcc53d (このIDを非表示/違反報告)
錫也(プロフ) - キャラ同士のCP込のやつってあまり読まないんですけど、好き。主くんの考え方も好きだし、鋭くてそれでも好意を受け取らないとか、最後の最後にちゃんと自分っていうのを確立できたような、文才から何から優ですわ… (2022年2月18日 11時) (レス) @page50 id: b3cb4375d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:@黒 | 作成日時:2020年11月23日 10時