私と小さい官僚と ページ8
中也が出て行った後…
私は気にせず再び書類に目を通した
が、其の内容が全く頭に入って来ない
右から左へ受け流すだけとなっている
子どもの扱いなど判らないし、知る予定も筈もない…
そんな私が、今彼の元に行ったとしても、何を如何すれば良いのかも判らない
そんな言い訳が頭の中をぐるぐる循環する
「……はあああ」
書類に顔を埋め、深くため息をつく
それと同時に、この部屋に向かって異様な気がじりじりと迫って来ていた
コンコンコン
軽いノックが三回鳴る
「A、私じゃが」
「どうぞ」
そう云ってみたものの、今入室したの姐さんの纏う雰囲気は平静のものを失っていた
「お帰りなさい、紅葉姐さん
…で、如何かしたの?」
「如何したも乞うしたも────
────之は一体如何いう事じゃ」
之とは何だ、そう考えていると姐さんの羽織が少しもぞもぞと動いていた
真逆、と先程迄いた人物の顔が過ぎり、目を見開く
ちらっと姐さんの背後から顔を出した私のよく知る子ども
先刻より少し目が赤い其の子ども
矢張り泣いたのか…
「A、早う説明を…」
「あぁごめんなさい」
幼い中也が泣いたことに気を取られ呆けてしまう
「実は今朝方、檸檬男の新薬により」
「其の事ではない」
「?…はい?」
頭の中では収まりきらず、頭上にも疑問符が飛び支う
如何やら此の事件の経緯では無かった様だ
「私が訊いておるのは、中也が泣いておった理由じゃ」
私はゆっくり目を逸らす
書類の方に視線を向け、冷たく云い放つ
「……それなら本人に訊いて下さい
私は…此の仕事で手一杯なので」
私がそう応えると、向こうの方から小さく息を吐く音が聞こえてきた
姐さんは子どもの扱いが上手い
だから、もういっその事、中也の面倒を見てもらいたいのだ
此れが最善の方法だろうし────
「兎に角、姐さん。後は宜しく」
一拍おいて姐さんが応える
「ほう、善かったのう中也
Aが主と遊んで呉れるそうじゃ」
「姐さん!?」
「好いではないか
何時も中也をこき使っておるのだから、今日くらいは…のう、A?」
「うっ…」
私の口からは肯定の言葉しか出なかった────
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作者名:ルナ | 作成日時:2018年3月22日 0時