王様と俺と抱擁と ページ6
ぽすっ
突然のことだった
背後からの衝撃と、腹に巻き付く腕に驚く
気味が悪くて其の腕に目線を向けると、よく見知っている人物の上着だった
何してンだ、此奴────────
「王様?如何かしたのか?」
「……」
「聞いてンのか?王様?」
返事が無い
その代わりに躰に纏う腕の力が強くなった
益々訳が判らない
数十秒は沈黙が続いた
「……何だ、照れないのか」
突如、沈黙を割いた声と同時に縛りつけられる感覚が消えた
王様の方に躰ごと向ける
何時もの余裕ぶった顔が見える
「何の真似だよ、之は」
「中也って莫迦以上に力あるよね、すごいすごい」
「そんな事は訊いてねェ…!」
「…」
「黙りか」
目を逸らす王様
理由は云いたくないらしい
短く溜め息をつく
王様からの抱擁という謎は、いっこうに解決しそうに無いようだ
しかし────
「…少し…」
「あ?」
「…ほんの少しだけ、中也に甘えたくなった……それだけ」
「────は?」
王様を凝視する
少し長い黒髪に隠れている耳が、少し赤みを帯びているのがチラチラと見える
先程の余裕の面は何処へ行ったのか
「ごめん。今の発言は忘れ」
「そうかそうか、王様は俺に甘えたかったんだな」
王様の言葉を遮る俺の揶揄いの言葉
声色は何時もより弾んでいた
「可愛い処もあるンだな」なんて笑い乍ら本心を云う
赤面の王様が俺を凝視した
「甘えたいんだろ?ほら」
躰の斜め前に腕を少し伸ばし、王様の入るスペースをつくる
「ん…」
伏し目がちに、しかし素直に、王様は来た
俺より少しばかり小さな背中に手を回す
機嫌取りなどもうお手の物で、子どもをあやす様に後頭部を優しく撫でてやる
すると、きゅっと、ジャケットを握る王様の力が強くなった
さらには額を俺の肩につけてきた
「はっ、意外と甘えん坊なンだな」
「甘えん坊じゃない」
「あーはいはい」
「…何が可笑しいの」
「否、矢っ張り王様は王様だなって」
「……」
返事は其れ限り返って来なかった
数分後────
────ぐっすりと王様が寝ていることに漸と気付いた中也であった
(……寝てやがる)
(…)
(ったく、甘えん坊の癖に強請るのが下手なンだよ)
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作者名:ルナ | 作成日時:2018年3月22日 0時