【文スト】王様に花束を【中原中也】 (ページ3)

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王様と俺と遊園地とページ3

とある昼下がりのこと
とある一組の男女が横浜の街を宛もなく歩いていた
今日は丁度二人とも休日で、先程ばったり出会ったらしく今は行動を共にしている

｢ねぇ中也｣

｢あ？｣

｢私、彼処に行きたい｣

目を輝かせ彼女が指し示していたのは

｢遊園地か｣

｢首領の職務室から何度か見たことはあったけど、行ったことは無いんだよね｣

中也は一度、尾崎紅葉に連れられ行ったことがある
嘗(かつ)ての記憶を辿ると其処には目を輝かせていた中也自身の姿
その目が今の彼女と酷似していて───

｢……行くぞ｣

中也は自ずと其の言葉を口に出していた
彼女の異能 “絶対王政”を無しに…
自分でも何故こんな事を云ったのだろうかと困惑する

彼女の方はというと先刻と違い、数回瞬きを繰り返し怪訝そうに中也を見ていた

｢え。今日は仕事休みだよ？｣

｢何勘違いしてンだ、莫迦王様
俺は手前の行きたがってる“遊園地”に行くって云ってンだよ｣

｢ああそういうこ、…ってえええええ！？｣

彼女の驚嘆の声は横浜中に響いたとかいないとか────

.

.

｢中也！疾く疾く！｣

｢そう云う手前はもう少し落ち着けねぇのか｣

王様は入場口で俺を手招きする
もう十七に成るであろう彼女の精神年齢は一回り程若そうだ

｢金払うから待てよ｣

｢はーい｣

無邪気に笑いやがる
そんなに楽しみなのか…まあ王様にとっては楽しみか

俺の口角は自然と上がった

.

入場券を購入し、王様に其の一枚を渡す
それにしても之って逢引(デート)みたいじゃねぇか？

王様に目を向けてみた
初めての世界を見てしまった王様には落ち着きなど無く、小さく息を吐くように、凄いという声が聞こえてきたのは云う迄も無い

其れからは王様に振り回されっぱなしだった
此の園内の全ての遊戯設備(アトラクション)を制覇したいと云い出した時、俺の明日は死んだと思った

閉園まであと二時間程
人は未だ多いままで、並ぶことに時間を蝕まれていくのであった

続く