異能協力団"隠月"は自由気ままでも強いのです！ (ページ30)

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２９話（夕月陽奈）ページ30

時雨にお土産の本(大量)を渡した成海は、自室でゴロゴロと転がっていた。
指をぶつけた訳ではないし、異能による何かの呪いをもらった訳ではない。

──ただ、暇なのだ。

真夜中なので、誰かと遊ぶ訳にもいかず、成海は溜息をついた。下ろした赤みがかった茶髪が揺れる。
成海は退屈が嫌いだ。一人で退屈な時間を過ごしていると、誰でも良いから自分の手に掛けたくなる。退屈な時に起きる殺人衝動は、今日は何時もより強い。
自分の本能の叫びから耳を塞ぐように、成海は「あ゛あぁぁあぁぁ！！」と短く声を上げた。

幼い頃から他人の命を刈り取ってきた成海にとって、殺人は呼吸をするより容易いことだ。
今ここで街に出て人を殺すなど、簡単に出来るだろう。
だが、成海はその事を躊躇うように自分の手を自分で握りしめる。

「でも、玲さんに見つかったらなぁ……」

成海は自分より歳上で、自分より後から隠月に入った女性を思い浮かべた。

一度その女性(ひと)の前で人を殺した事があった。共同任務で、珍しく一緒になったのだ。
その女性にナイフを振り上げた男に、咄嗟に異能を使い激痛の中でトドメを刺したのだ。

男が絶命する──、その時の彼女の顔が、成海の目に焼き付いていた。

切なそうに眉を寄せ、過去を思い浮かべ、誰かを悼むように目を閉じた女性──桜木玲。彼女は普段から無表情故、見間違いかもしれない、でも……それでも、

(あんな顔見せられたら、あの人の前で人を殺せるわけないよ)

小さく息を吐いて、成海は仕事着ではない服を衣類収納ボックスから取り出した。

はっきり云って、センスが良いとは云い難い服ではあったが、成海は構わず自室の扉を開けて廊下にでた。
廊下の窓の外を見れば、月と星が出ている。

(そういえば、華さんからメール着てた。……でもさっきつばめちゃん帰ってきてたし、大丈夫だよね)

上から外套を羽織って寒さ対策をする。昼が長くなったとしても、まだ夜は冷える。

携帯を部屋に置いたまま、彼女は廊下を歩き出した。

(隣、時雨君だから邪魔しないように慎重に……)

この時間でも開いている窓を見つけ、窓枠に手を掛けて外に飛び出す。

外に、自分の育て親に似た男を見つけるということを知らぬまま、彼女の黒い外套は夜の闇に掻き消されていった。