陽炎（かげろう） (ページ10)

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智と一緒の時間はゆっくり過ぎる、穏やかで優しい時間だ。
こうやって二人で過ごせるなら、このままでもいいのかもしれない。
そんなふうに思えるぐらい満ち足りたこの気持ちを智も感じてくれてたらいいな。

ふたりとも結構飲んで食べて、時間は一時を過ぎようとしてた。
俺はまだまだいけるけど、智が眠そうだった。タクシー呼んで智を乗せる。

「マツジュンはこの後、どうするの？」
タクシーのドアに手を掛けたまま智が振り向く。

「ああ、誰か暇なヤツ探して、俺はもう少し飲んでから帰るよ」
「…そっか。じゃあ、今日はご馳走さま」

タクシーの窓から手を振る智を見送って、ため息をついた。

「答えはまだもらえない、か」

そして、どこかでそれを期待していた自分に気付く。

焦ったらだめなのはわかってる。何年も引きずったままのあの人への気持ちを抱えた智が、
そう簡単に切り替えられる訳ない。
でも、俺はそんな智をそのまま抱きしめたいんだ。

このときはまだ智に対して幾ばくかの気おくれを感じていたし、
そっとしておくことしかできなかった。

でも、智が俺にとってどれだけ大切かって思い知る出来事がその数日後に起こった。