陽炎（かげろう） (ページ33)

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３３　（Ｏ　side）ページ33

頭を下げたままのおいらの耳にため息が聞こえて、肩に大きな手が置かれた。
「実はな、本当は何があったのか、我々は知っているんだよ」
「え…？」
一瞬何を言われているのか意味が分からず顔を上げると、チーフは優しい顔でうなずいた。
その後ろで社長がニコニコ笑いながら、まるで茶飲み話でもするようにおいらに話しかける。

「バックダンサーと接触したんだってね。骨折したまんま踊ったんだって？まったく君って子は…相変わらず無茶なことするねぇ」

「う…あの、…なんで…？」

「君と接触したダンサーがね、昨夜ここに来たんだよ。大野さんは
本当に大丈夫だったんですかってね」

結局、全部話すしかなくて…
でも、あの子のことをどうこうするなんてことはないって言われて安心した。

「今日、ここに呼んだのはね、そのことじゃないよ。今後のこともあるからさ、ちょっと釘を刺しておこうと思ってね。じゃあ、後はよろしくねぇ」
チーフにひらひらと手を振って、社長はひょこひょこと会議室を出て行った。
「お疲れ様でした」
社長の背中に頭を下げ、ドアが閉まるとおいらに向き直る。

「さてと、ちょっと話そうか。ずっと立ってるのは辛いだろう。座って話そう」
長くなるなって、覚悟して向かい合わせに腰掛けた。

思った通りそれから一時間近く、たっぷり説教された。
怪我したのを隠すなんて前代未聞だ。メンバーを巻き込んで偽装するなんて
言語道断だ、などなど。
どれもおいらとメンバーを心配してのことだって、痛い程わかる。
最後においらの状態を確認して、明日の収録の調整をしてくれた。
ゲストがいるから収録に変更はきかないけど、対戦ゲームが一部変更され、
おいらの出番が少し減った。

おいらのことだけど、おいらだけのことじゃない。
わかってたけど、わかってなかった。
一人で何とかしようとしたけど、結局みんなに迷惑かけることになったのは
そこまで考えてなかったからなんだ。

帰りのタクシーの中で、自分のこと、みんなのこと…柄にもなくいっぱい考えた。