陽炎（かげろう） (ページ29)

今日:17 hit、昨日:5 hit、合計:158,884 hit

２９ページ29

智と翔さんの話し声に目が覚めた。
翔さん、やっぱり来たんだ。そっと腕時計を確認すると午前六時。
そりゃあ、気になるよね。心配であんまり寝られなかったんじゃないかな。

どうも話の内容はダンサーの子を庇う智に、納得できないって翔さんが
珍しく強く迫ってるみたいだ。しばらく狸寝入りして様子を見ることにした。
今、翔さんの邪魔しちゃいけないだろう。翔さんもちゃんと智の気持ち知りたいよね。

でも、その狸寝入りは長くは続かなかった。

「翔くん、大好きだよ」

ぶっ
ぷはっははは

智が落とした爆弾で、翔さんが撃沈する様を見て思わず吹き出した。

骨抜きにされた翔さんと、きょとんとする智を見比べてまた笑いが込み上げる。
「翔さん、デレすぎでしょ」
「んなっおま…っ違」
真っ赤な顔になった翔さんが日本語不自由になるのを見て、智もふははと笑った。

終始デレデレの翔さんは一時間程して智の検温を潮時に、何度も名残惜しげに振り返りながら
仕事へ向かった。
その後、八時に先生が診察に来て、いつでも退院していいとお許しをもらった智はすぐにでも
帰りたいと言った。

「今日、明日ぐらいは安静にしていないと治りが遅くなることがあります。
出来れば仕事は休んでいただきたいんですが、どうですか？」
「今日は休みだから、大丈夫です」
「今日はね」
あんた、明日がレギュラー番組の収録なの黙ってるつもりかよ。
口を挟んだ俺をちらりと見て、智はため息をついた。

「えと、明日はちょっと身体を動かす仕事なので…安静は無理かも…です」
だんだん小さくなる声に先生は苦笑する。
「仕方がないですね。では痛み止めを多めに処方しましょう」

そう言いながら先生は智の病衣を開き、固定帯をそっとはずした。
脇腹の大きな赤黒い痣は全然消えてないけど、腫れは引いてるみたいで少しほっとした。