陽炎（かげろう） (ページ26)

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「マツジュン？どうかした？」

急に黙り込んだ俺に優しい眼差しが向けられた。
あんただってよく見てるじゃん。
俺だけが特別って思いたいけど、そうじゃない。それはメンバーみんなに注がれる優しさだ。

「ねえ、さっきニノと何を話してたの？」
ほらね、ちゃんと気付いてる。さっきのニノの様子が気になるんだよね。
「あんたを心配してたよ」
「…泣いて、なかった？」
鳶色の瞳が揺れる。

「え…？いや、泣いてなかった。ってか俺、ニノに怒られたし」
「そうなんだ。珍しいね、ニノが怒るなんて。…まあ、おいらはしょっちゅう
怒られるけど。たまに本気でキレられる」

それはあんたを大切に想ってるからだよ。…とは教えてやんない。
あんたはまず俺に返事をくれるべきだって思うからね。その後なら気分次第で
教えてやんなくもない…いや、それはないな。

「なんかね、目が覚める直前に声が聞こえて…ニノが泣いてるような気がしたんだ。
早く目を開けなくちゃって思ったら、お前の声が聞こえた」
「ああ、やっぱりそれって俺を怒った時だよ」
「そっか」

智はそれ以上なにも言わなかった。

その後、点滴を取り替えに来た先生に、疲れるから休むようにいわれて
智は大人しく瞼を閉じ、すぐに眠ってしまった。
俺も隣のベッドに寝転がったけど、全然眠れそうになかったから、寝るのは諦めて
智の眠るベッドサイドに腰かける。
　
窓からの薄明かりの中で智の寝顔を見ていると、ニノの真剣な顔が浮かんできた。

『潤くんのエゴだよね』

そうかもしれない。今回のことがそのせいじゃなくたって、俺のことで
智が悩み苦しんてるなら…あんたを苦しめるだけの存在なら、俺はどうすればいい？
教えてくれよ