陽炎（かげろう） (ページ25)

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ここに連れて来た時、智は意識がなくて…
抱きかかえて運び込んだら、ストレッチャーに乗せられて酸素マスクをされ、処置室へと
連れて行かれた。ついて行こうとした俺の肩を掴んで翔さんが止めたのを振り払って、
後から来た相葉さんとニノに押さえられ、やっと我に返った。

取り乱したことが恥ずかしくて、でもいてもたってもいられない気持ちを
どうする事も出来なくて唇を噛みしめた。

その時の智の顔を思い出して情けなく震える気持ちを、強く両手を握りしめて押しこめた。

「もう大丈夫だから。心配させてごめん」
俺の心を見透かしたように智は謝った。
「無茶なことしたってわかってる。でも、どうしても…どうしても、できなかったんだ。
あの子の夢をおいらが壊しちゃうかもしれないって思ったら…」
「うん、わかった。なあ、もう今夜は休んだ方がいい」
智の辛そうな声にたまらず遮った。

平気な顔してるけど、智の呼吸はすこし早くなっていた。ベッドを元の位置まで倒して、
掛布を直し、ベッドサイドから離れようとした俺の手を、きゅっと握って引き止める。
「…ほんとにもう大丈夫だから」
その手を握り返してベッドサイドに腰掛ける。

「そうだね、顔色もずいぶん良くなったみたいだ」
そう言ってそっと頬に触れるとくすぐったそうに笑った。

「でも痛くないのは薬が効いてるからだし、息が苦しくないのは
安静にしてるからだってこと、わかってる？」
「え…うん」
「嘘つけ。今だってちょっとしゃべっただけで息切れしてただろ」
唇を尖らせ口ごもる智。
「う…お前ほんとによく見てるよね。隠し事してもすぐバレちゃうもんな」

当たり前だよ、ずっとあんたを見てるんだから。
でもそうやってあんたを見てるのは俺だけじゃない。

ニノとのやり取りを思い出して胸が苦しくなった。
。