陽炎（かげろう） (ページ24)

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「酸素マスクは外しました。もう、心配はいらないでしょう。
後は、安静にして骨が着くのを待つだけです」
仕切りのカーテンを開いて出てきた先生は俺とニノにそう言って笑った。
「ありがとうございました」
深々と頭を上げて礼を言う。

「櫻井くんから聞いています。今夜はお二人ともここに泊まっていかれるんですね」
「あ、ぼくは帰ります。大野とも話が出来て安心したので、もういいかなと」
ちらりと俺に送った視線は物言いたげに揺れたけど、何も言わず背中を向けた。
そして荷物をまとめると智が何か言う前に手を振り、先生に会釈をして部屋から出て行った。

智が楽な姿勢になるようベッドを調節して先生が出ていくと、途端に気まずい空気が
俺らを飲み込んでいくような気がした。
「あの…さ、」
黙り込む俺を前に、ちょっと困ったような顔で口を開いた智。俺を見つめる智の鳶色の瞳は
普段と変わらず、深い優しさを湛え澄んでいる。

「ほんとにお前に似てたんだよ」
智の次の言葉は意外過ぎて、一瞬ついて行けなくなった。

「え？」
「おいらにぶつかったダンサーの子」
智はただの言い訳と皆が思っていたことに、こだわっていたみたいだ。
「あの子はジュニアの子じゃないけど、きっと何かになりたくて頑張ってるんだよ。
バックダンサーしながら、おいらたちの背中見て、いつか自分もって…」
「ああ、そうだね」

俺たちもジュニアの頃、先輩の背中を見ながらそう思ってたよな。
俺は先輩じゃなくてあんたの背中を見てたんだけどね。

「だから、おいらに出来ることをしたんだ。でも…みんなに迷惑かけちゃった」
固定された右手に視線を落とし、左手で胸をそっと押さえる。

「痛むの？」
心配というより不安な気持ちが俺を押し潰そうとする。
「ううん、痛くない」
そう言ってふわりと笑う智の顔色は、もういつもと何も変わらないように見える。