陽炎（かげろう） (ページ21)

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２１　（Ｏ　side）ページ21

遠くで声が聞こえる…だれ…
泣いてんの…？
…知ってるよ…この声…ニノでしょ
どうしたの…なんで泣いてんの…
待ってて…今、行くから

「…」
声が出ない。
身体が言うことを聞いてくれない。

おいら、どうしたんだっけ…

ぼんやりと霞がかかったみたいな意識の中で、ゆっくり記憶が呼び起こされてくる。
ああ、そうだ…なんとか踊りきったけど、結局みんなに迷惑かけちゃったんだ。

ターンをしようと床を蹴った直後で、体勢が悪かったんだ。
じゃなかったら、きっと上手く避けられた。咄嗟にマイクを持った右手を床についたから、
ちゃんと身体を支えられなくってあの子の立てた膝の上に倒れ込んじゃったんだ。
衝撃とともにやって来た激痛に、身体をどけるどころか息も出来なかった。
マツジュンが助け起こしてくれた時、あまりの痛さに身体が強張った。

でも、おいらの下敷きになったあの子の怯えた瞳を見て、マズイなって思った。
おいらの怪我がばれたら、この子どうなっちゃうんだろうって。
だから、痛いの我慢して平気な顔してやり過ごすことにしたんだ。マツジュンにはバレたから、
手首のことだけ言ってごまかして…。

「どうしようもないんだよっ」

おいらの回想を破って、辛そうなマツジュンの声がすぐ近くで聞こえた。
何かあった？
ニノもそこにいるんでしょ。声を掛けたいのに…重たい瞼はなかなか開かなくて…
おいら、まだちゃんと目が覚めていないみたいだった。

「…っ」
なんとか声を出そうとしたら、耳元でおいらを呼ぶニノの声。
「大野さん？」

左手があったかくなった。ニノの手がおいらの手を握ってるんだ。
徐々にはっきりしてくる意識と共に重たい瞼がやっと開いた。