陽炎（かげろう） (ページ20)

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「…俺はリーダーから聞いたわけじゃない。偶然、目撃したんだよ。
俺が知ってるってこと、リーダーだって知らない」
いや、正確には具体的に何を知ってるかを知らないってことだけど、それをニノに言う気はない。

「今更それを知ってどうするんだよ。そんなこと関係ないだろ」
「俺は…もう傷ついてほしくないんだよ。あんな大野さん、二度と見たくないんだ。
笑いながら見えない涙を流すのを…何もできずにバカみたいに見てるだけなんて、
二度とごめんなんだよっ」
「ニノ…」
肩を震わせて絞り出すように、押し殺した声で叫ぶニノに気圧されて言葉が出てこない。

ニノの智に対する想いの深さに愕然とした。
それにくらべて俺は智を自分のものにしたくて駄々をこねてる子供みたいだ。

「潤くんは、この人を泣かせないって誓える？しあわせそうなこの人の笑顔を、
ずぅっと俺に見せてくれるっていうのかよ」
「そんなのわかんねえよ。でも、俺だって智を泣かしたくなんかない。
笑っててほしいに決まってんだろ」

ニノが智を大切に思うのと、俺が智を守りたいって思うのとに何も違いはないんだろう。
ただ、俺は…俺の隣で笑っててほしいと思うんだ。手の届くところに居てほしいって…

「どうしたらいいかなんて、わかんねえよ。だた、俺の傍に居てほしいんだ。
手の届くところにいて欲しい…」
「あの人縛り付けて自由を奪うつもり？」
「自由を奪うつもりなんてない。
あんたのことを守りたいって思う奴がここにいるんだよって…つらいときや悲しいときに
一人で苦しまなくていいように。だから、手の届くところにいてほしいんだ」
「この人がそれを望んでないなら、単純にそれは潤くんのエゴだよね」

ニノの言葉に頭の中が真っ白になった。

「だったら何っ…俺だって…どうしようもないんだよっ」
おもわず大きな声になって、はっとする。
「っごめん。でも、俺はリーダーの答えを待つしかないんだ。だって、そうだろ？俺の気持ちはもう伝えちゃったんだから」
そう言ってニノから視線を外した。

何と言えばニノが納得するかなんてわからないし、俺の気持ちを伝えた以上、もうこれは
俺と智の問題だって思う。ニノだってほんとはわかってるよね。
その証拠にニノはもう何も言わなかった。

冷めた残りのコーヒーを一気に咽喉に流し込み、ふと智に目をやったかと思ったら
急に立ち上がった。

「大野さん？」