陽炎（かげろう） (ページ18)

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「明日にはずいぶん楽になってるはずだって、先生が言ってた。だから、心配ないよ」
そう言いながらも、翔さんは智の頬にそっと触れ、少し悲しげな顔をした。

きっと誰にも助けを求めることをしないで、無茶をする智を寂しく思っているんだろう。
物言いたげにしばらく寝顔を見つめてから、相葉さんを振り返り笑顔を向ける。
「さあ、帰ろうか」
翔さんは俺らの中で一番の心配性で、自他とも認める智贔屓だから、
本当は自分が泊まり込みたいに違いない。ここから仕事に行くのだって苦じゃないだろう。
でもそうすると、きっと誰も帰らないだろう。

不安を隠せない俺ら年下組に「智くんは大丈夫だよ」って
「俺が智くんをおいて帰れるぐらいだからね」って態度で示してる。

相葉くんは明らかにその翔さんにほっとしたみたいだ。
固い表情で智を見つめるニノは、そんな翔さんの気持ちを知りつつも、この人から
離れられないんだ、俺みたいに…

相葉くんを連れて翔さんが帰ったら、病室は急にしんと静まり返った。
微かな酸素マスクからの呼吸音しか聞こえない。

息苦しくて、居心地悪くて小さく咳払いしたらニノがふっと笑みを浮かべる。
「なんか咽喉乾いたな」
立ち上がり強張った身体をのばしてポケットから小銭を出した。
「なんか買ってくるわ。ニノもいるだろ？」
「うん。サンキュ」
ニノは俺を見上げてまた笑った。それは妙に現実感のない乾いた笑顔だった。

自動販売機でミネラルウォーターとホットコーヒーを買って病室へ戻ると、
ニノはさっきと全く同じ姿勢で智の手を握っている。

「温かいのにしたよ」
コーヒーの缶を手渡すと、やっと智の手を離してそれを受け取った。
「ありがと」
そう言ってプルタブを開けて一口コーヒーを飲む。

「ねえ、潤くん。この間も聞いたんだけどさ、もう一回聞いてもいい？」
上目使いに俺を見るニノ。

二人だけのこの状況で、ニノを誤魔化したり丸め込んだりできる気がしない。