陽炎（かげろう） (ページ15)

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「智くん…やっぱりあの時…」
弱々しく首を振る智に翔さんが食って掛かる。
「なんで、庇うの」
「だって…あの子、昔のマツジュンに似てた…から」
苦しげな呼吸の合間に切れ切れに、泣きそうな顔でそんなこと言われたら何も返せない。
俺は黙って智に服を着せてやることしかできなかった。
最悪な怪我の状態に動揺してる自分と、言い訳してまでそいつを庇う智に腹を立ててる自分がいて、頭の中がぐちゃぐちゃだった。

たぶん智はそのダンサーが誰にも似てなかったとしても同じように庇っただろう。
そもそも本当に俺に似てたかどうかだって怪しい。

「マネにはなんて言うの？」
「え…」
「病院へは、もちろん行くよね」
智の鳶色の瞳を真っ直ぐに見つめて返事を待つ。
「…自分で転んだって…」
言いかけた智の言葉を遮ったのはニノだった。
「なんで？どうやって？」
答えに窮する智にさらに追い打ちをかける。
「そんな見え透いた嘘、すぐにバレますよ。全く大野さんってばウソが下手過ぎ」
ニノはそう言って腕を組んで理由を考える。
「そうだな…帰りにみんなと飲んで、酔っぱらってぇ、家で転んだってことにしましょう。
よろけて…そうだな、椅子の背もたれに強くぶつけたってのはどうでしょう」
　翔さんが頷いてニノの案が採用された。マネには翔さんが上手く伝えてくれることになった。そうするのが、ぼろが出なくて一番安全だろう。

「歩ける？」
着替えさせて、俺らも帰る支度を済ませると、智の蹲る背中にそっと触れて声をかける。
コクンと頷くが返事をする余裕はないようだった。
抱えてでも運んでやりたいけど、そんなことしたらすぐにみんなの知るところとなるだろう。
ここまで頑張って隠した智の気持ちを無駄にはしたくなかった。

「駐車場まで頑張って」
翔さんと両脇を支えて立たせると、俯いたままの智から押し殺した小さなうめき声が漏れた。
それを聞いて肩を震わせた相葉さんが泣きそうな顔になるのを、目敏く見つけたニノが
バシンと背中をどやしつける。
「ほら、しっかりしろって、あいバカ。この人、隠して連れてくんだから」

智の荷物を持ち、相葉さんの腕を取るとニノは楽屋のドアを開けた。
人通りがないことを確認して俺たちに合図すると二人が先に出る。
二人はその背中に智を隠しながら、俺たちはわいわいと楽しげに駐車場へ向かった。

五人で固まっていれば誰と会っても会釈ぐらいで、呼び止め話しかけてくる人はいない。