陽炎（かげろう） (ページ13)

今日:21 hit、昨日:5 hit、合計:158,888 hit

１３ページ13

「あ～あ、翔さん、かなり怒ってるよ」
そんな智をニノが明るく茶化す。けど、その茶色の瞳は笑ってなんかいなかった。
俺は鞄を探って湿布薬を出して、智の右手にそっと触れる。
「ほんとに折れてないんだよね」
「うん。折れてたらこんな痛さじゃすまないよ」

　相葉さんが持ってきてくれた氷で智の手首を冷やす。捻挫だったら冷やして安静にしてれば治りは早いはずだった。
「心臓の位置より高くすると痛みもましだから」
　大人しく言う通りにする智の顔を見て、俺はなんとなく落ち着かない気持ちだった。
なんだろう…何か見落としてる感じがして胸がざわざわする。
翔さんも腕を組んでじっと智の様子を観察してるみたいだった。
不安そうな相葉さん、智の背中に自分の背中をくっつけて黙り込むニノ。
たぶん、みんなもおんなじ気持ちなんだろう。

誰ひとり、その原因を突き止めることも出来ないまま、ぎりぎりまで冷やしてから
手首に湿布薬を貼る。
「匂わないヤツだから周りの人に気付かれたりしないよ」
貼りながら心配顔の智にウインクすると、へにゃっと笑った。
「ありがと」

その後のリハは位置確認だけにして本番を迎えた。翔さんが言った通り、ハンドマイクはヘッドセットに変更されてて、智の負担はかなり減ったはずだった。

「智くん、顔色悪いよ」
本番中、翔さんが隣に座る智に囁くのが聞こえた。俺は智の後ろの席だったから、モニター越しにしか智の顔は見えない。
「大丈夫だよ、翔くんってば心配し過ぎ」
ふふっと笑う智に司会者が話を振る。それに答えていつも通りの笑顔を見せる智に気遣わしげな視線を向ける翔さん。

司会者と話す智の横顔に違和感を覚えて、その原因を探ろうと見つめていたらニノに突かれた。
「潤くん、大野さんのこと見過ぎ」
「だって、なんかあの人の様子、オカシイと思わない？」
小声で返すと頷いたニノが自分の額を指差した。
「うん…大野さんさ、もう汗かいてるんだ…めずらしいよね」
それでか、いつもの涼しげな印象と違って見えたのは…まだ踊ってないって言うのに薄っすら汗をかいてる智の額を凝視する。
「…だから、見過ぎだってば」
「ああ、ごめん。けど、気になるんだ」
ＣＭに入った瞬間、智に後ろから声をかけた。
「智、痛むの？」
振り向かずに首だけを横に振る智に嫌な予感しかしない。
胸苦しい焦燥感…あんた、なんか隠してるよね。

出番は後少しでやって来る。