陽炎（かげろう） (ページ12)

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「リーダー大丈夫？リハ続ける？」
相葉さんが智の肩に両手をそっと置いて、その顔を覗きこむように訊く。
「大丈夫だよ。続けよう」
それを聞いて思わず智の腕を引きよせて耳元に囁く。
「あんた怪我したろ、隠してんじゃねえよ。休憩いれてもらおう」
少し驚いたように俺を見上げてから、智はクスリと笑った。
「うん、わかった。…実は手首やっちゃったんだ」

ニノに目配せすると頷いてスタッフに声をかけた。
「ちょっと休憩入れてもらっていいですか。順番変更できませんか」
スタッフは一も二も無くリハの順番を繰り下げて、一旦楽屋に帰してくれた。
心配するマネージャーを体よく追い払い、智は何でもないふうにゆっくり廊下を歩くけど、
肩を支える俺には分かってしまった。強張って力の入った身体は明らかにいつもの智とは違う。

「…骨、折れてないよな？」
「大丈夫だよ」

智が怪我をしたことは、抱き起したときに気付いてた。
捻っただけで身体が強張る程痛むとは考えにくい。だったら、骨折…？
俺が不安そうな顔をしてたんだろう、俺を見上げた智は穏やかに笑ってふわりと寄り添ってきた。

楽屋の椅子に座らせ智の衣装の袖をそっとめくる。右手首が赤く腫れてきていた。
捻挫か、骨折か。
覗き込んだメンバーが俺の後ろで固まった。

「俺、なんか冷やすもの持ってくる」
相葉さんが駆け出すのを智が止める。
「待って、相葉ちゃん。そんなのいらないっ…」
「大丈夫。ちゃんとばれないようにするから心配しないで」
ニカッと笑って手を振り、楽屋を出て行った。

「ちゃんとわかってますよ。怪我を隠したのはさっきの子のためだってこと」
ニノが肩をすくめ、しょうがないなって笑う。その横で、翔さんは首を振って渋い顔をしていた。

「…翔くん、ごめん」
八の字眉でしゅんとする智に翔さんが強い事言えるわけがない。
そう思って翔さんを盗み見ると、なで肩を更に下げてため息をつくのが見えた。
「マイク、持てないね」
翔さんの言葉に俯き小さく答える智。
「…だいじょ…」
「大丈夫じゃないでしょっ、ハンドやめよう。俺、スタッフに言ってくるわ」
翔さんは智にそれ以上言わせず、踵を返し楽屋を出て行った。
「…」
翔さんの剣幕に智は何も言えずその背中を見送った。