２１ ページ21
「ほんとに今日は調子良さそうだ。リビングに連れて行ってやろうか」
そう言うとサトシはちらりと俺を見上げて、ためらいがちに口を開いた。何かお願いされそうな雰囲気だ。
「…あのね、したいことがあるの」
「なんなりと仰せのままに」
おどけてみせるとサトシはくすぐったそうに笑った。
「ふふ、ジュンったら。…あのね、おいら外に出たい。ちょっとだけでいいから…外に出たい」
「え、外に？」
「うん」
「…雪が降ってて、ものすごく寒いよ」
「わかってるよ、だって冬でしょ。だめかな」
渋る俺の顔を見て寂しそうに俯いたサトシの様子に肩をすくめてため息をついた。
「しょうがないな。そんな顔されたらダメって言いにくくなるだろ」
「え、いいの？」
ぱっと顔を上げて驚いて瞬きをするサトシに頷いた。
「だけどほんの少しだけな」
「うん、わかってる。ちょっとだけでいい」
「何かしたいことがあるの？」
「…雪を触りたいだけ」
「雪を触る？」
「そう、触りたい」
なんで急にそんな事を言い出したのかは分からないけど、何かしたいと言うこと自体はすごくいいことだから、渋々オーケーした。
最近のサトシはほとんどベッドの中で過ごしてたから、たぶんひとりで歩くことすらできないだろう。リハビリはしてるけどマッサージ程度じゃ筋肉の衰えはどうすることも出来なかった。
そんなサトシが少しでも自分からしたいというんだから、多少の無理なら聞いてやりたい。
「外は静かだから、たぶん大丈夫だよ。準備してくるから、ちょっと待ってな」
サトシを残してリビングに戻るとソファに寝そべったカズと目が合った。
「なに」
何かを察したんだろう。カズは眉をひそめた。
やっぱりカズはいいカンしてるよな。
どうせならサトシを喜ばせたいって思った俺は、いいアイデアが浮かんだんだけど、一人じゃ無理そうだし…
「ちょっと手伝ってくれ。サトシが雪を触りたいって外に出たがってるんだ」
「…うそでしょ。この寒い中？しかも夜だよ。真っ暗じゃん」
「だから手伝えって言ってんの」
「雪を持ってくるだけじゃダメなのかよ」
ぶつぶつ文句を言うカズに趣旨を伝えると賛同してくれたみたいで、それ以上は何も言わずに帽子をかぶりコートを着てマフラーと手袋の重装備に、最後にマスクをつけて「よしっ」と一言呟くと玄関を出て行った。
急いでキャンドルとライターを用意して、俺も同じような出で立ちでカズを追った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 175人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
dango3104(プロフ) - お返事ありがとうございます(〃ω〃)休止中の心の隙間を素敵なお話を一気読みする事で何とか日々を乗りきっておりますm(_ _)m時にニヨニヨし、時に涙し、家族に不審がられようとも気にせず(￣∀￣)何とか智さん不足を補いつつ生きとります(ノ_＜)新作、楽しみにしてます (2022年4月6日 17時) (
レス) id: 51c921a09e (このIDを非表示/違反報告)
ＡＫＩＲＡ(プロフ) - dango3104さん» dango3104さん、コメントありがとうございます！最近は全然UPできていないのですが、何年も前のお話に新しいコメントを頂けるなんて感無量です！また書き始めているので新作ＵＰできたらぜひ読んでくださいね。 (2022年4月5日 23時) (レス) id: 30a2c7b7ee (このIDを非表示/違反報告)
dango3104(プロフ) - 最愛同様に深い愛ですね・・・涙が止まらないです (2022年3月28日 17時) (レス) @page29 id: 51c921a09e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ＡＫＩＲＡ
| 作成日時：2017年6月10日 12時
