白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…１出会い編 (ページ5)

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翌年の秋、俺は念願の神事を見にマサキの車で山奥の村に向かった。
車でと言っても村までは行けない。二人で運転を交代しながら車中泊して一日半、山越えしたところで車を止めたマサキは事もなげにこう言った。

「さあ、ここからは歩きだよ。荷物持った？」

　目の前には険しい山道。
「どれくらい歩くんだ？」

「んーサクサクいければ二時間ぐらいかな。
途中につり橋があるから、そこは慎重にね。何しろ古いからさ」
　
はぁ…
　
ため息をついて荷物を背負う。
だから靴はスニーカーだとか鞄はやめてリュックにしろとかうるさく言ってたのか…

「さっさと行かなきゃ暗くなるよ。遭難したくないでしょ」
「勘弁してくれよ…」

愚痴っても仕方ない。目的を思い出し、気を取り直してそこから一時間半歩きとおして、やっとのことでつり橋にたどり着く。
途端に開ける視界。そこは本当に物凄いところだった。

絶景とはまさにこのことを言うんだと素直に思えるような景色だった。

「すっげえ…」
　
思わず口を突いて出たのはありきたりな言葉だったけど、目の前に広がるこの景色を前にそれ以外の言葉は浮かばなかった。
　

濃い緑の切り立った険しい山、眼下には深く青い渓流。
木々の香りと渓流の水分を多く含んだ空気は濃密で都会育ちの俺にはかえって息苦しく感じるほどだった。
　
つり橋はショウさんが言っていた通り、高所恐怖症でなくても十分に胆の冷える代物だった。
一抱えほどの太さのかなり年代物の綱と腐りかけた板とロープでできている、いつ落ちても不思議じゃない、そんなつり橋だった。

それが高さにして六十メートルほどの崖から向こう側の崖へと架かっている。
下はもちろん流れの速い渓流で落ちればひとたまりもない。

「ジュン、大丈夫？」
　
マサキは先を歩きながら時々振り返って俺がついて来ているのを確認する。
足場は板二枚分、五十センチ程しかない。

「ああ、なんとかな。でも、これ本当に落ちたりしないんだろうな」
「まだしばらくは平気だと思うよ。じいちゃんの代で架け替えたって言ってたからさ」
「…じいちゃんの代…」

マサキの情報は何の慰めにもならなかったから、俺はとにかく足を滑らさないように、踏み外さないように足元に集中することにした。

慎重に歩いたからか渡りきるのに結構時間がかかったけど、何とか無事に渡りきる。