白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…１出会い編 (ページ28)

今日:17 hit、昨日:0 hit、合計:43,689 hit

２６ページ28

「今日、持って帰って研究所でこっそり検査するよ」
「え、今日帰るの？」
サトシが驚いたように俺を見る。

「あれ、言ってなかったっけ。休暇は十日間なんだ。
ここから東京までは一日半かかるから今日の昼にはここを出ないと帰れないからな」

「…そう…なんだ」
「うん。せっかく知り合えたのに残念だけど、俺も仕事があるからね」
さみしそうに微笑むその姿に胸がツキンと音を立てた。何か気の利いた言葉でも言えたらいいんだろうけど、何も思いつかなくて黙り込む。途端に落ちる重たい沈黙…

「また、帰ってくるよ。ジュンも連れてさ」
マサキが急に大きな声を出すから、二人して飛び上がりそうになって顔を見合わせて笑った。

「そっか。マーくんも一緒に帰るんだね」
ふわりと笑って見せたサトシはそれ以上なにも言わなかった。
マサキは一瞬俯いてから深く息を吸いこむとニカッと笑った。

「今度はさ、春の山桜が満開になる頃なんてどうだろ。
ジュンに見せたいよね。俺たちしか知らない特等席でさ」

「でも、ジュンはそんなころに休みなんてとれないんじゃないの？」
嬉しそうに頷いたけど、俺を見て心配げな顔をする。

「ああ、帰って見ないと分からないな。次の研究のスケジュールもあるし。
でも見たいな、その山桜」

「綺麗だよ。ソメイヨシノみたいなのじゃないけど、おいらは大好きなんだ。
マーくんが偶然見つけて、つれて行ってくれたんだ」

「迷子になって遭難しかけたけどね」
「おいおい、マジかよ」

「ふふ、そうだった。暗くなって寒くなって二人で泣いてたら…父さんが見つけてくれたんだ。マーくんを片手でおんぶして、おいらをもう片方で抱っこして帰ってくれたんだ」

「めっちゃ怒られたね」
「うん。げんこつ痛かった」

二人は頷き合って自分の頭を撫でた。その光景が目に浮かぶようで、またこの二人の特別な繋がりに疎外感を持ってしまう。

「いいよな、幼馴染って」
思わず口を突いてでた言葉にマサキが俺の背中をポンとたたいた。

「ジュンにもいるでしょ。たまに名前の出てくる奴。えーと…カズ、だっけ」
「ああ、あいつね。あいつは…マサキたちみたいなのとは違うような…」

一見人懐っこい顔をした、その実、皮肉屋なあいつの顔がよぎる。

今回はあいつの助けが必要になるかもしれないな。