白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…１出会い編 (ページ27)

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「ああ…これじゃあレントゲンはないな」
「え、ここじゃだめ？」

鍵を開けて中にはいると案の定、どう見ても学校の保健室に毛が生えたような設備しかなかった。薬棚にも消毒液や痛み止め、止血剤なんかはあるけど、抗生剤や麻酔剤はない。
ここで大怪我したらものすごく痛い思いをすることになるだろう。

「レントゲンどころか採血すらできなさそうだな…注射針とかは何処だ？」

引出しや戸棚を開けて家探しすると診療所の奥に鍵のかかった頑丈な戸棚を見つけた。
鍵束の中からそれらしき小さな鍵を取り出して開けてみると、注射針や麻酔剤、そのほか強心剤なんかの劇薬系の薬もあり有効期限もちゃんと管理してあって、ほっとした。

二か月ごとに検診がてらだろうけど、きちんと管理をしていることが窺える。

「採血はできそうだな」
振り返るとついて来ているのはマサキだけで、サトシは入口に立ち止まったまま入ってこようとしない。

「サトシ？どうかしたの？」
「…ここは苦手だから、外で待ってるね」

サトシの返事にかぶせるように、マサキが慌てて小声で説明する。
「サトちゃんのお母さんさ、ここで亡くなったんだ。
先生が来るのを待てなくて、サトちゃんが一人で看取ったんだよ」

「そうだったのか。それじゃあ、採血はべつのところでしよう」

急いで採血に必要な物を持ち出して診療所を後にした。
診療所を出ると戸口の横に立っていたサトシと目が合った。

「大丈夫？マサキに聞いたよ。ごめん、嫌な想いさせたな」
俯いたサトシの髪をくしゃりと撫でると首を振って顔を上げた。
「ううん、平気。ただ、入りたくないだけだから、気にしないで」
　
俺たちはサトシの部屋に行ってそこで採血することにした。

「ねえ、採血してどうすんの？」
マサキが嫌そうな顔で俺の手元を覗き込んでくる。

「サトシの何が普通と違うのか調べるのと、何かの病気にかかってないかどうかを調べるんだ。普通の健康診断と同じだよ」

サトシは他人事のように興味のなさそうな顔でそんなマサキを見詰めていた。