白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…１出会い編 (ページ17)

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祭壇にご神体が安置され神官によって祝詞が奉げられる。
宗教の知識のない俺は、日本語とも思えない祝詞を聞きながら、ずっとあの人の背中を見詰めていた。
　
伸びた背筋に凛とした空気を感じる。
昨日の朝のあの人とは別人みたいだ。あの時はどちらかというと柔らかく穏やかな空気感でふんわりしていたように思う。でも今はそんな印象は欠片もない。
　
祝詞が終わると神官は舞台から降りていき、舞台中央に巫女が跪くと皆が息を潜めて舞台に注目する。辺りを静寂が包み、滝の音の他には何も聞こえない。

　
シャーン

シャーン

シャーン
　
ふいに鈴の音が高く響き、ふわりと巫女が立ち上る。
鈴を捧げ持った白く細い腕がしなやかに伸び、指の先には幾筋もの祈り紐がなびく。
　
トン
　
微かな音と共に高く跳躍し、白い衣がなびくさまは美しい蝶のようだった。
舞台の上をシャラン、シャランと鈴を鳴らしながら巫女はひらひらと蝶のように舞う。
　
シャーン
　
もう一度、鈴を高く鳴らした巫女は祭壇に鈴を納める。それを合図に雅楽が再び鳴り始めた。
ここからが俺が見たあの「剣の舞」だ。
　
巫女はご神体である刀を手に取ると捧げ持って少し後ろへ下がる。
そして鞘ごと帯に差して、こちらを振り返る。

薄絹で隠されたその顔は見えないが、その美しい立ち姿に息を呑む。

優雅ともいえる仕草で静かに神剣を抜いた巫女は抜身の刃を一振りする。
青白い光を放つ刀は音を立てて空を斬り、身を翻した巫女は、そのまま滑るように舞台中央へと移動する。
　
ヒュン

見えない邪気を払っているのか、巫女は流れるような剣捌きで小気味よい音を立てる。

ご神体の刀は真剣だと言っていた。とすればかなりの重量だ。
目の前で刀を振るい舞う巫女はその細腕で軽やかに刃を滑らせ、重そうな素ぶりは一切ない。

白い幻のように儚く、それでいて微かな狂気を孕んだその舞いは、見ている者を別世界へと誘っていくようだ。

この舞台が世界のすべてであるかのように皆を覆い尽くし、呑み込んでいく。

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あの動画は確かにこの人の舞いだった…俺が魅入られた、夢のように儚く美しいあの舞いだった。
でも実際に目の前で見た舞いは、篝火に照らされ幻想的で、畏れを感じる程に美しかった。