白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…１出会い編 (ページ16)

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翌日も朝からマサキがやって来た。

「おはよー。いよいよだね。楽しみでしょ」
「ああ、そうだな」
　
朝飯を済ませた俺を神社へ連れて来たマサキは、夕刻から始まる神事を前にお参りするのだと言った。

「早めに行っとかないと混雑するんだ。
お昼までに済ませておかないとそれ以降はお参りできないからね」
「なんで出来ないんだ？」

「だって、その頃には肝心のご神体は神事のために別のところへ移されてるからね。
滝壺まで登って行くんだよ」
　
マサキの言う滝壺は露天風呂よりさらに上に登ったところにあった。
村から一時間のところにあり、普段はしめ縄が張り巡らされていて立ち入り禁止の場所らしい。

夕方から続々と村の人がランタンを持って登ってゆく光景は、まるでお伽噺か怪談の一場面みたいで不思議な感じがした。

「すげえな…」
思わず呟く俺に、マサキが嬉しそうな顔をした。

「この光景が子どものころはすげえ怖くてさ。
でも、サトちゃんは「綺麗だね」って言ったんだ。だから俺、ほんとだねって答えて…
そしたら不思議と怖くなくなったんだ。サトちゃんの言葉には不思議な力があるんだよ」
　
また『サトちゃん』の話だ。マサキは本当にあの人が大好き…いや、大好きを通り越してる気がするんだよな。

確かに強く惹かれる何かを持ってる人で、初対面でほんとに二言三言交わしただけの俺がこんなに気になるんだから驚きだけど、纏う空気が他の人とどこか違う感じがする。

・

滝壺に着くと大きな舞台が組んであり、その奥に祭壇が設えてある。
いくつもの篝火がそれを照らし、後ろの滝とあいまって神秘的な雰囲気を醸し出している。
　
烏帽子をがぶった楽士が舞台に上がり、雅楽が流れ出した。

滝の音と雅楽の音色しか聞こえない。そんな厳かな空気の中、誰もが息を潜めて舞台の奥から現れるご神体を待っている。

シャーン
　
ふいに鈴の音が響き辺りの空気を震わせる。
徐々に近づいてくる鈴の音に合わせて雅楽の音量も上がり、舞台の袖からご神体を捧げ持つ神官が現れ、後ろに白装束の巫女が鈴を鳴らしながら続く。