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今どき信じられないけど、この村には全く電波が届かないらしくパソコンどころか携帯だって使えない。陸の孤島っていうのを体感した。せっかく持ち込んだパソコンは画像を再生するくらいしか出来なかった。
「ここはね、むかしから何も変わらないんだ。
たぶん明治時代ぐらいで止まってんじゃないかな」
大真面目な顔でマサキが言う。
まあ、電気は通ってるからそれは言い過ぎだろうけど、それでも四、五十年ぐらいは遅れてる気がするな。
「それでもここに住んでるのは、やっぱりいい所だからなんだろ？」
「有り余るほどの自然に囲まれた環境はいいとして、死ぬほど単調な生活が好きな人ならね」
腕組みして難しい顔をするマサキ。
「だって、それが嫌でどんどん若い子は出て行くんだよ。俺だってそのひとりだしさ」
「それでもここに残ってる人たちのお陰で帰省出来るんだろ」
「…まあ、ね」
俺は両親ともに都内だから田舎ってものを知らないし、十年以上アメリカに住んでたせいもあって田舎があるって羨ましいけどな。
「でもさあ、よくこんなに長い休暇とれたよね。忙しいんでしょ、研究所」
「別にかまわないさ。俺の研究はひと区切りついてるから、次の段階に入る前の今でなきゃ十日も休めないしな」
マサキは俺に付き合って十日の休暇を取るために助っ人を頼んだ保育士仲間に、飲みにつれていくことと土産を買うことで手を打ってもらっているらしい。
「あのさ、ジュンって新薬の研究してるんだよね」
「ああ。」
畳に大の字に寝転んでいたマサキが起き上がって真剣な表情で俺を見た。
「どんな薬？」
「今やってるのは臓器移植の患者に投与する薬。これはアメリカの研究施設と共同で開発しようとしてるやつで、従来のより副作用が少なくなるはずなんだ。最終的な臨床試験はアメリカでする予定だから、もうじき俺の手からは離れるんだけどな」
「ふーん、臓器移植か…すごいね。じゃあさ、それが済んだら違う薬の研究する？」
「ああ、でもなんで？」
何か言いたいことがあるんだろう、言いにくそうなマサキに促すように問い掛ける。
「…明日、サトちゃんに会ってもらってから話すよ」
サトちゃん絡みか。
俺もあの時感じた微かな違和感の正体を確かめたいから願ってもないことだ。
でも、思いつめたようなマサキの顔からして、何か深刻な問題を抱えてる可能性もある訳で…
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作者名：ＡＫＩＲＡ
| 作成日時：2017年5月20日 13時
