第四波(8) ページ35
学校が始まった。なのに、狂平くんは目覚めない。
毎日、お見舞いに行くのがジムに行く前の私と浦正の約束になっていた。
「こんにちは。・・・何ですか?それ」
「ああ。狂平の昔の写真。ずっと離れていたから懐かしくて。Aちゃん、覚えている?」
「え?」
「あ、同じ名前ってだけかな?あれ、でも・・・」
「何が、ですか?」
狂平くんのお姉さんは、微笑みながら数枚の写真をだした。
「Aちゃん、って昔いたのよ。一緒によく遊んでいた。仲が良すぎて一緒に山の中までいっちゃって、警察出ての大捜索よ」
やっぱりね・・・
そんな事ありました。
よく覚えているよ。
本当に。
「A!狂平が!」
少し動く。
彼の長いまつ毛が震える。
少しずつ、目が開いた。
「狂平!狂平が起きた!」
「うら・・・まさ?A・・・さん?姉・・・ちゃん?」
「狂平!」
浦正が狂平くんを抱きしめた。
絶対、離さない。
まるでそんなふうに言いたいかのように。
「せ、先生!」
狂平くんのお姉さんは、主治医の先生を呼びに行った。
残されたのは狂平くんに抱きしめている浦正と、私だけ・・・
「俺、生きているの?」
「生きているんだよ!良かった。本当に良かった!」
「死ぬかと思った・・・」
本当に生死をさまよった人が何を言っているんだ。
「俺、妖精の森にいって・・・」
「妖精の森?」
浦正は知らない。二人の間であの森をそう呼んでいることを。
だけど、私はわかる。
そんな微かな自信。
「狂平くん、目覚めましたか。良かったです」
主治医の先生はその後幾つかの検査をして、病室を出て行った。
「姉ちゃん、お母さんは仕事?最近帰ってないみたいでさ」
「狂平、その骨折は何処でしたの?」
え?
お姉さん?
なんで?説明はしないの?
亡くなってしまったこと。
自分が保護者になったこと。
そんな大切な事を、説明しないの?
「あの人に・・・食器棚に投げられた時・・・」
「他の体の痣も?全部そう?」
「ほとんどは・・・」
「わかったわ」
お姉さんは、ポケットから、小さな機械を取り出した。
横の机におくと、さっき浦正がしたように抱きしめた。
でもすぐに離すと、機械を持って、病室を出て行ってしまった。
私は追いかけた。
この綺麗な女性が、何を考えているのかわからない。
私は彼女の手首を掴んだ。
「説明は、しないのですか?」
「Aちゃん、これは事情が」
「狂平くんを無視しての事情?なにそれ」
私は彼女を睨みつけた。
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K - これはやばい、泣きそうなるwwおっしゃ、続きみてきます!! (2014年7月24日 16時) (レス) id: 62927ed8ab (このIDを非表示/違反報告)
杜若蒼(プロフ) - 馬鹿様@義さん» 嬉しいです!ありがとうございます☆ (2013年7月26日 20時) (レス) id: 064ab8f00f (このIDを非表示/違反報告)
杜若蒼(プロフ) - ちゅりさん» 容量関係で新しい奴作ったよ♪ (2013年7月26日 20時) (レス) id: 064ab8f00f (このIDを非表示/違反報告)
馬鹿様@義(プロフ) - とてもいい話ですっ!!めっちゃ続き気になるます!! (2013年7月26日 17時) (レス) id: 2449c355ab (このIDを非表示/違反報告)
ちゅり(プロフ) - 続き気になる―やっぱり面白い (2013年7月19日 17時) (レス) id: d15994d5d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:杜若蒼 | 作成日時:2013年5月26日 23時