幕間 脇役達は何を知る。 ページ22
「……」
「…兄さん、やっぱり最近のあの子おかしいよね…?」
「うん、そうだね。……陽紗、今はいいけど開店したら一応店では『店長』ね?」
「大丈夫、わかってるよ。」
何やら溜息をつきながらテーブルを拭く少女を視界に映して、厨房担当である妹と話し合う。
数か月前から、彼女の身の回りで『何か』が起こったことは何となく察していた。
だからこそ彼女らしくない嘘やおかしな行動について、理由を一切聞かなかった。
他人が足を踏み入れていい領域の話ではないと感じたからだ。
「『諦めきれないまま引っかかってるけど、無理やり考えないように蓋してます。』みたいな顔をしてる気がして…。」
「陽紗もそう思う、か。」
___彼女がこの店で働くようになったのは、今から三年ほど前の話。
まだ今ほどお客様も入っておらず、経営も不安定だった時のこと。
突然ふらっと現れた彼女は、開口一番「ここで働かせてほしい」と頭を下げた。
理由を聞くと「立地が良いと思った」とよくわからない回答が返ってきて首を傾げたものだが、人手も資金も無かった当時のこの店にとっては有難い申し出だった。
真面目で優秀。どうしてこんな人材が当時のこの店に来てくれたのか。考えれば考えるほど不思議でたまらなかった。
しかし、最近になってやっと理解した。
彼女は恐らく、自分に起こる様々を知っていたのだ。
そしてそれを避けるために、この店を選んだ。
何となく複雑な気持ちにならなくもないけれど、始まりの理由がどうであれ「今の彼女」がこの店を大切に思ってくれているのはわかっているから、別に構わない。
問題は、それを選んだはずの彼女自身が無理をして笑っているところにある。
何があったのか、それは他人である僕と妹にはわからない。
ただ、このまま諦めさせてはいけない。そんな気がする。
「…店長」
「うん?」
「多分…あの子厨房に回りたいって言うと思うの。…でも『今』、厨房に回しちゃいけない気がする。」
「……そうだね。最終的な選択権は彼女にあるけれど、未練があるなら『そっち』を選びやすいように誘導くらいはできるかな。…やってみるよ」
+++
あれから数日。
厨房に回ることをやめた彼女は、今日も見事に客を捌いている。
その表情はどこか吹っ切れたように清々しい。
「多少は助けになれたかな。」
そう呟いて午後からの予定を確認するのと、ホールから聞こえた悲鳴を認識するのはほぼ同時だった。
『午後 「公子」様来店』
Ep.21 つまりもう逃げられないってことでよろしいか?→←Ep.20 つまり配置換えはナシってことでよろしいか?
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ブックマーク@りんごおれ(プロフ) - ものすごく最高です応援しています! (2023年3月4日 17時) (レス) id: 30dece2dde (このIDを非表示/違反報告)
しろぐみ - ありがとうございます……! 大遅刻更新ですが、良ければこれからもどうぞよろしくお願いいたします……! (2022年12月23日 22時) (レス) id: 02baec0345 (このIDを非表示/違反報告)
怜(プロフ) - とても面白い作品ですね!!楽しく読ませてもらっています。更新楽しみにしてますね!!! (2022年12月2日 22時) (レス) id: 7981f63c4d (このIDを非表示/違反報告)
しろぐみ - 有害物質さん» 読んで頂きありがとうございます! 更新頻度は遅くなってしまっていますが、これからも楽しんでいただけたら嬉しいです……! (2022年11月27日 16時) (レス) id: 02baec0345 (このIDを非表示/違反報告)
しろぐみ - ゆいピさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます……! もうなんと言いますかどんどん無料で読んで頂ければ嬉しいですといいますか……! 良ければこれからもどうぞよろしくお願い致します…!! (2022年11月27日 16時) (レス) id: 02baec0345 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろぐみ | 作成日時:2022年3月30日 16時