[3.思考の寄り道] ページ4
ドアが開き、車内へと乗り込んだ。
「お願いします」と言って軽く頭を下げてから、座席に深く座り込むと、ゆっくりと扉がしまる。
「時間があんまりないから_____間に合うようにしたほうがいいかな?」
若い男性の運転手がゆっくりと振り返って、優しい笑顔でたずねた。
思わず「え_____」と声がでかけた。
なんでわかるんだ。
私の通っている第一高校は電車と徒歩で約一時間以上のところにあり、朝の6時ごろにはすでに家を出ている。ジョギング中のおじさんや家の周りを掃き掃除するおばさんぐらいにしか会わないくらいだ。
現在時刻は7時50分。遅刻判定を喰らわないためには、8時25分までに学校に着いている必要がある。
私の住む市内には学校数も充実している。だから、一般的には市内の学校に通っていることを想定するんじゃないか。
それに、私の住む地域の周辺から、第一高校に通っている人など、見たことがない。
つまり、制服をぱっと見ただけでは気づかない人が大多数だ。
宙をにらめながら考えていたからだろうか、運転手は小さくふっ、と笑った。
その声で思考の渦から逃れた私は、小さな笑い声が聞こえた運転手の方を見た。_____いやなんでわかるんねん。あとその余裕なんやねんて。
「驚かせてすみません、僕、そこの卒業生なんです」
あっ、と小さく声が漏れた。
その可能性を全く考えていなかった。
そりゃあ卒業生だったらわかるじゃないか。
登校時間約一時間と言えど、所詮は隣の市。
卒業生など周りにうじゃうじゃいるのかもしれない。
ずいぶんと余計なことに労力を使ってしまったな、と浅く後悔する。
でも、後悔よりも私を包み込んだのは、ちょっとした嬉しさだった。
_____こうやって、気になったことや一つの事象に対して、深く深く考えるようになったのは、おそらくあの人の影響。
というか、自分からそうするようになった。
少しでも、あの人に近づきたいから。
____近づける術は、それくらいしかなかったから。
窓の外の流れる景色をぼんやりと眺める。
先ほどから運転手が一切話しかけてこないが、おそらく、私が半目で首をかくんかくんと揺らし始めたからだろう。心なしか運転速度も少し落ちた気がする。
「お客さん」
はっ、と目を見開く。
慌ててキョロキョロとあたりを見回すと、見慣れた学校の校門が見えた。
時刻は8時15分。ギリギリ行けそうだ。
運転手に礼をし、車を降りると、一気に校門へと駆け出した。
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作者名:Ririri_85 | 作成日時:2021年5月16日 22時