［2. 救済の消滅］ ページ3
「………て！…………！」
遠く、遠く。
誰かの声が反響して止まない。
「…きて！！……て！！！」
頭がぐらぐらと揺れる。
その声はだんだんと近づき、鮮明になる。
聞き覚えのある、耳と、胸の嫌なところに張り付くような声。
そうだ、この声は____
「起きて！！」
ガッ、と勢いよく頭を振り上げる。
急いでデジタル時計を探すと、デジタル時計が床でピピピピ、と電子音を刻みながら「6時16分」を指していた。
______終わった。
「だから早く寝ろって言ったのに！！もう知らないからね！！」
声の主は、母だった。
エプロンをつけたまま、私を頭上から睨みつける。
だが、母のことなどどうでもよかった。
目が覚めていくと同時に、全身がみるみるうちに冷えていく。
まるで濡れた体が北風に吹かれるように。
母が呆れて部屋から出て行った。
___どうしよう。
とりあえず、目やにのせいで開かなくなった目をこすり、状況の把握に努める。
私はおそらく、昨日(厳密に言うと今日)に寝落ちをしてしまったようだ。この机の上で。
画面には剣持の配信が終了された旨のものが映し出されており、コメントもたいぶついていた。
ここでふと後悔したことは、机の上を片付けてしまったこと。
あのまま参考者類をとっ散らかしておけば、「勉強をしていた」と釈明する余地があったのだった。
だがもう後悔しても遅い。
私が学校に行くために絶対に乗り損ねてはならない電車を、既に乗り損ねてしまったからだ。
さらに現在、母は(御察しの通り)ご立腹である。
この時点で「車で送ってもらう」という救済の選択肢が消滅してしまっている。
否、どうしようもなかったのだ。
まずは行動に起こさなければまずい、と感じた私は、とりあえず部屋のドア付近にあるクローゼットを開けた。
隣にあるフィギアやグッズたちが、がたん、と音を立てて揺れる。
無心で制服を取り出し、ハンガーにかかった状態のまま床の上に放り投げた。
急いで閉めて、パジャマを脱ごうとした瞬間に、上からガタン、とバッグが落ち、右足の小指付近に命中した。
痛い、というより、ウザい、という感情が勝り、行き場のないイライラが心の底にべたり、と蓄積した。
___と、その時。
胸の中に、微かな光が咲いた。
「これ……いけるかも」
バッグの中からはみ出た財布を見つめ、そう呟いた。
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作者名：Ririri_85 | 作成日時：2021年5月16日 22時
