第19話 ページ19
今日の寺は一段と静かだった。右京たちはどこかへ出かけてったらしく、日向とAだけが午後の時間をのんびりと過ごしていた。
Aは縁側に腰掛けて外をぼんやり眺めている。
曇った空からは次第に雨粒が降り出していた。
雨に当たらないように少し後ろへ下がる。
雨の日は湿気が鬱陶しくて、あまり好きになれない。
情緒的な部分は好きだけれど、洗濯物の生乾き感はいつまでたっても慣れないものだ。
日向は外を眺めるAに声をかける。
「おい。これお前のだろ」
日向はあの時にAを刺したナイフを返した。
「あ。ありがとうございます」
Aは日向を見上げた。
相変わらず眠たげな目をしていたが、もしかしたら日向は このナイフを返すタイミングなんかをずっと計らっていたのかもしれない。
そう思うと、Aの中で日向の人間味がぐっと増した。
「あ、そういや」
「んだよ」
「ずっとはっきりした答えを日向さんからもらってないんですけど、日向さんはなんで私を助けたんですか？」
その問いに日向は言葉を詰まらす。
自分でも理由というものがわかっていなかった。
あの場でAが死んでも、死ななくても、どちらの結果になっていても日向には興味のないことだというのに。
ただ…。
あの時Aという人物が、死ぬのにはもったいないかもしれない、なんて思ったりもしたのだ。
「別に、喧嘩ふっかけられたわけでもねーのにわざわざ殺したってな。お前くらい殺しておかなくても害になんねーし」
本心を言えるわけもなく、なんとなくごまかす。
その言葉にAは二ヘラと笑う。
「結局は日向さんの優しさですね」
「お前ほんと能天気だな」
日向は珍しく穏やかに笑う。Aもにこやかに日向を見上げる。
Aは、日向が本当のことを言っていないことは気がついた。
でも、もちろん無理に問いただすつもりもない。
こうして面倒まで見てくれる日向の人間性を知れば、理由なんて自ずとわかってくる。
Aはゆっくり伸びをする。
「右京さんたち帰ってくるの遅いですね」
「あいつらいねーと静かだから当分帰ってこなくていいわ」
「ご飯誰が作るんですか」
「お前」
「…怪我人に料理させるとか鬼畜」
目を閉じると雨音が脳内に響く。
気がつけば、2人ともまた眠りについてしまっていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 108人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
魄 - 秋(シュウ)さん» ヽ(*´∀｀)bﾊｰｲ (2017年12月3日 15時) (
レス) id: 95ee45f67a (このIDを非表示/違反報告)
秋(シュウ)(プロフ) - 魄さん» コメントありがとうございます！テストお互い頑張りましょうね！ (2017年12月2日 22時) (レス) id: 19f78b416f (このIDを非表示/違反報告)
魄 - あ、あとテスト頑張れ〜！私もテスト期間だわw (2017年12月2日 17時) (レス) id: 95ee45f67a (このIDを非表示/違反報告)
魄 - 続編楽しみにしてます！頑張って！ (2017年12月2日 17時) (レス) id: 95ee45f67a (このIDを非表示/違反報告)
秋(シュウ)(プロフ) - みきやんさん» コメントありがとうございます！本当ですか！めっちゃ嬉しいです…！ (2017年12月1日 17時) (レス) id: 19f78b416f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：秋(シュウ) | 作成日時：2017年11月8日 19時
