美しい月夜の晩に ページ9
こっそり覗きこむと、人がベランダの縁に立っていた。明るい月で逆光になり、その人の顔はシルエットになっていて分からない。
分かるのは、長いつややかな黒髪に、純和風の服装。女の人かな？二十歳ぐらいだ。
不可解な気迫をまとい、風呂敷づつみを持っている。
この人が何者かなんて、皆目見当もつかないが、不審者に違いはないだろう。
「こんにちは」
できるだけ気配を消していたつもりなのに、気づかれてしまった。いきなり殴りかかったりしないあたり、悪人ではなさそうだ。
『こっ……こんにちは』
なんとか声を絞りだし、私は物陰から出てきた。ここに何か用ですか、そう言おうとしたら、先に女の人が口をひらく。
「いい月夜ですね」
凛とした声。その声だけでとても美しい人だと判断できた。
「母が、今日の月をどうしても見たいとおっしゃっていたので。わたしも、月は好きですし」
女の人は、クスリと笑った。
「ここから眺める月はきれいだと、わたしによく似た風貌の方がすすめてくださったのです。
なるほどきれいで、母も喜んでおりますわ」
そう女の人は言っているが、件の母親の姿は見あたらない。
『あの……あなたのお母さまは、どちらへ？』
おそるおそる聞いたが、女の人は含み笑いをして、何も答えなかった。そして、腕の中の風呂敷包みを大切そうに抱きしめる。
「わたしもまさか、こんな時間に、こんなところで人間に出くわすとは思いもよらず……。ところであなた、不死の薬ってご存知ですか？」
急になんだろう？不死の薬っていったら……。
『かぐや姫……のことですか？』
「ええ。でも、深くは知らないようですね」
口に手をあてて目を細める女の人。まじまじと顔を見ることはできなかったが、やはりとても綺麗な人だ。
「不死の薬を飲んだら、永遠に、生きることができるのです。たとえ、一部分だけでも」
『……』
私はいいようのない恐怖感におそわれた。
なんだろう。この人は……この世の人間じゃない。
でも、靄の中で正体を見極めようとしたって無駄だ。
──天人の中に、持たせたる箱あり。天の羽衣入れり。またあるは、不死の薬入れり。
一人の天人言ふ、
「壺なる御薬奉れ。きたなき所の物きこしめしたれば、御心地あしからむものぞ」
とて、持て寄りたれば、いささかなめたまひて、少し、形見とて、脱ぎおく衣に包まむとすれば、ある天人包ませず。御衣を取り出でて、着せむとす──
ふと、そんな一節を思いだした。
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鳥羽(プロフ) - レイさん» ありがとうございます！なかなかの長編になりそうです(汗)更新頑張ります！ (2017年4月29日 11時) (
レス) id: 4acd08ad41 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - クイーンが登場！！(≧∀≦)でもまさかの展開ですね！？��(ﾟДﾟ)続きが気になります…！ (2017年4月27日 23時) (レス) id: fc45d488d7 (このIDを非表示/違反報告)
鳥羽(プロフ) - レイさん» 喜んでいただけて何よりです(*^_^*) (2017年3月15日 7時) (レス) id: 4acd08ad41 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - わぁあ！！神宮寺さん！！(≧∀≦)素敵です！！ (2017年3月14日 11時) (レス) id: fc45d488d7 (このIDを非表示/違反報告)
鳥羽(プロフ) - レイさん» ありがとうございます！頑張って更新しますね( ´ ▽ ` )ﾉ (2017年3月12日 17時) (レス) id: 4acd08ad41 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鳥羽 | 作成日時：2017年2月11日 21時
