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北斗side
遊び疲れて夕闇が辺りを包む頃、ふと気付いた。
嗅ぎ慣れない生臭さが周囲に漂っている事に。
そして近付いてくる獣の荒い息遣いと黒い影に。
それはひとつでは無く、いつの間にか俺らの周囲をぐるりと囲んでいて、直感で危機的な状況である事を悟った。
これは・・・マズイ・・・。
北「・・ゆぅ・・ご・・」
周囲を見渡し動かなくなった俺を見て、優吾はキョトンとした顔で俺を見つめている。
彼だけは助けたい。生まれて初めて己の命より大切だと思った人。
優「・・・ほく?」
北「優吾。いい?僕のお友達が来たんだ・・・追いかけっこしたいみたい。おうちまでほくと一緒に逃げ切れたら僕たちの勝ちだって!思いっきり走れる?」
彼を怖がらせないよう、震える身体を抑えて優吾の手をギュッと握った。
優「うん!楽しそう!」
得体のしれない影たちが、薄闇からジリジリと距離を詰める雰囲気を悟り、意を決して土を蹴る。
北「行くよ!」
俺らが走り出すと共にその影も動き、と同時にその影の正体がかなりの大きさのものである事がわかった。
優「あー!ワンワンだー!おっきいー!」
・・・アンスロー!!しかもかなりデカい。
マズイマズイ!!
家まではそんなに離れていないはずなのにその距離は遥か遠くに感じる。
すると月光に照らされたそれらの影のひとつが人型に変化し、俺らの前に立ちはだかった。
?「これはこれは松村家のご子息ではないですか?」
北「誰だ!!お前は!!」
優吾を背中に隠し、そいつらをギッと睨み精一杯声を絞り出す。
クスクスと嘲笑い、その男が近付いて来た。
そして数頭の巨大なアンスローが俺らを威嚇する様に口を開け、涎を垂らしながら俺らの周囲をゆっくりと回り始めた。
男「来い!お前には人質になってもらう」
北「やだ!!やめろっっ!!」
まさか身代金目的か?
男が俺の腕を掴んで引っ張ると、何かを察したのか優吾が俺の身体を離れないようにギュッと抱きしめる。
その反動で男の手が離れると、そのまま優吾は俺に覆い被さった。
優「だめ!ほくをいじめるな!!」
北「優吾・・・」
優吾を引っ剥がそうとする男に負けないよう踏ん張り、震える体で優吾は俺を抱きしめ守ってくれていた。
彼のこんな細い身体のどこにこんな力が・・・。
すると数人のアンスローが人型へと変化し、俺らを引き離しに掛かった。
所詮は非力な子供。
抵抗虚しく俺と優吾は引き離されてしまった。
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作者名:櫂 | 作成日時:2023年3月23日 22時