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▼7話 ページ10

「お気に入りなんだよね、ここの席」


比較的空いている店内をぐるりと見回し、出入口とは対の位置にある二人掛けの席へと腰掛けて鞄を籠へと入れるA。
レースのカーテンで和らいだ陽の光が優しく二人を包む。「うたた寝はしちゃダメだよ?」と先程のことを掘り返して悪戯に口角を上げる彼女に「しねえっつーの」と苦笑しながら鞄を置き、腰を下ろす。


「快斗って白似合うよね〜。苗字は黒羽なのに」
「オメーには言われたかねぇな」
「褒めてくれてるの?」
「さあな」


整っていて窮屈な学ランのボタンに手を掛けワイシャツ姿になると、彼女がいつもの調子で素直な褒め言葉を口にした。
裏の顔が白の怪盗の身にとっては鋭い一言に内心冷や汗ものだったが、どうやらそれも彼女の気まぐれらしい。俺が率直な返しを口にしたことが余程珍しかったのか、面食らって呆気に取られた表情をするA。マズったな、なんて思いながらも否定をしなかった自分が一歩踏み出せた気がして。
傍から見たら些細なことだけれど、それでも拗らせた二人の関係に少しでも響けば、なんて。


「そういや何で俺のこと誘ったんだ?他に仲良い女子とか…」
「そこは察してくれても良いでしょ?」
「へ?」
「ふふ、冗談!他の人だと愚痴やら恋バナやらに付き合わなきゃいけないから」


「快斗と一緒に居ると気が楽だし、落ち着くの」俺を見つめていた紫紺の瞳が優しげに細められる。
期待させたかと思ったら落として、でもまたすぐに期待させられてしまう。そんな彼女に翻弄される俺だけれど、二人で過ごす時間はひどく愛おしくて。


「まぁ幼馴染だからな」


自分を戒めるために言ったのか、それとも彼女にそれ以上を期待していたのか、自分でも分からない。
そんな俺の葛藤を他所に、また彼女は「本当にそれだけかなぁ」なんて意味深に笑って窓の外に視線を投げる。
少し波がかった綺麗な黒髪の上で光が弾け、きらきらと輝く光輪が綺麗だ。天使の輪、なんて小洒落た呼び方もするらしいが、今はなるほど納得がいく。
髪を耳に掛けるだけの何気ない仕草に鼓動が逸る。
見ているだけでも幸せなのだから、彼女に溺れてみるのも良いのかもしれない__周囲に言わせれば、もう手遅れなくらいに溺れてしまっているらしいけれど。

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Silvia(プロフ) - 怜さん» わ!!!2年前にもコメントしてくださった方ですよね…!?本当に嬉しいです、見てくださってありがとうございます〜!!ゆっくりにはなってしまいますが、更新はし続けるつもりなのでこれからもお付き合いいただけると幸いです! (5月14日 8時) (レス) id: b3d15ce9d9 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 通知きて叫びました、、更新ありがとうございます!!!お忙しいかと思いますがぜひこれからもお話書いていただけたら嬉しいです( ; ; )応援しています!! (2023年5月6日 1時) (レス) id: abf0b4af80 (このIDを非表示/違反報告)
Silvia(プロフ) - 怜さん» うわああぁありがとうございます!!!好きって言っていただけて嬉しいです!がんばります:) (2021年5月19日 15時) (レス) id: a80726cefa (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - この作品とっても好きです!!これからも頑張ってください! (2021年5月19日 15時) (レス) id: abf0b4af80 (このIDを非表示/違反報告)
Frisk(プロフ) - シルビア-Silvia-さん» 振り込むって時点で金なんだよなぁ…絶対破壊光線期待してます。 (2021年1月16日 12時) (レス) id: 83e488319f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Silvia | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年3月22日 10時

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