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▼36話 ページ39

青子とAを無事に送り届けた俺はブルーパロットへと足を運び、次の予告の段取りを確認してから家へと引き返した。サッカーボールを抱えた小学生とすれ違ったり、仲睦まじげにゆっくりと歩く他校のカップルを追い抜いたり、普段とさほど変わらないそれが今日はやけに生き生きとして見えた。

__生きている。死んだような静けさはどこへやら。
__生きている。鳥の飛び交う夕焼け空は赤々と燃えている。
__生きている。確かに撃ち抜かれた筈の心臓は静かに拍動を繰り返している。
生きている、生きている、生きている__。

刺すような寒気に片腕を抱いた。あの夢の中の銃声がまだ耳にぺったりと貼り付いている。垂れた冷や汗を拭い、玄関のドアを恐る恐る開けた。
億劫で上しか掛けないことが多かったドアロックも二つ全て施錠した上にチェーンまで閉める。我ながら臆病だと内心笑いながら。

青子には夕飯は要らないと連絡を入れた。お世辞にも家から出る気にはならない。さて、夕飯はどうしようか__作りに来てもらうわけにもいかない。
人並みには料理は出来るが、何せ我が家のキッチンには俺に向かって初めましてと言わんばかりの調味料が並んでいる。使い方が分かるのは母さんかアイツくらいだろう。青子はあの様子じゃ知らねぇだろうし。
仕方が無いのでキッチンのストック棚からインスタントラーメンの袋を取り出し、湯の沸く様子をただじっと見つめていた。


「……何すっか」


ぽつりと零したのはそんな宛の無い言葉だった。
授業を全て昼寝に塗り替えてしまったというのもあるが、まず寝るという選択肢を選ぶ気にはならない。
もしあの夢の続きを見てしまったなら。もしあれが今夜現実になったなら。不吉な考えばかりが脳内をぐるぐると巡っている。
生憎一晩中没頭できるほどの趣味は持ち合わせていない。マジックも観客ありきで成り立つものである。
読書やら何やらをしたら別だが、1時間か……せいぜい頑張って2時間と少し。1人で潰せる時間はおおよそそれくらいだろう。仮にそうしたとして、事後は布団の上で罪悪感に駆られつつ呆然としながら夜が明けるのを待つのか。なんだか、釈然としねぇ気もするけど。

噴きこぼれた湯が手に跳ねて俺が悲鳴を上げたのは、その僅か後の話。

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Silvia(プロフ) - 怜さん» わ!!!2年前にもコメントしてくださった方ですよね…!?本当に嬉しいです、見てくださってありがとうございます〜!!ゆっくりにはなってしまいますが、更新はし続けるつもりなのでこれからもお付き合いいただけると幸いです! (5月14日 8時) (レス) id: b3d15ce9d9 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 通知きて叫びました、、更新ありがとうございます!!!お忙しいかと思いますがぜひこれからもお話書いていただけたら嬉しいです( ; ; )応援しています!! (2023年5月6日 1時) (レス) id: abf0b4af80 (このIDを非表示/違反報告)
Silvia(プロフ) - 怜さん» うわああぁありがとうございます!!!好きって言っていただけて嬉しいです!がんばります:) (2021年5月19日 15時) (レス) id: a80726cefa (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - この作品とっても好きです!!これからも頑張ってください! (2021年5月19日 15時) (レス) id: abf0b4af80 (このIDを非表示/違反報告)
Frisk(プロフ) - シルビア-Silvia-さん» 振り込むって時点で金なんだよなぁ…絶対破壊光線期待してます。 (2021年1月16日 12時) (レス) id: 83e488319f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Silvia | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年3月22日 10時

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